前回は、MaaS(Mobility as a Service)とエネルギーとの交点の拡大について紹介した。従来議論されてきたこの交点とは電気自動車(EV)であり、特にエネルギー側からはEVを通じたV2G(V2X)が議論の主軸であった。MaaSという視点でこの交点を見直すことで、どのような変化が起こり得るのか。また、各プレーヤーは具体的にMaaSとエネルギーをどのように交差させていこうと考えているのか。今回は、MaaS×エネルギーの交点の在り方について紹介する。

図_Maas×エネルギーの交点_4c
 これまで同時同量が原則であった電力流通において、バッテリーを有するEVの登場により、エネルギーの力学とは異なる形で新たな電源が創出されることとなった。電力業界ではEVを用いた系統安定化などに関する実証が2000年代半ばごろから盛んになり、近年ではビジネス実証にまで到達している。EVを束ね、それらの充放電を制御することが、系統安定化に寄与し得ると、いくつかの実証では結論付けられている。

 しかし、こうした実証はあくまで電力視点でのモビリティーとの連携であることに注意が必要である。実証の中でもモビリティーニーズはある程度考慮されているものの、その前提は従来型の車の利用形態(自家用車の保有、低稼働率)であり、EV側は基本的に求められた需給制御に呼応することとなっている。

 すなわち、電力視点では、移動よりも系統安定化に焦点を当てがちであるが、本来EVは移動のための手段である。MaaSによってより多様化し様々な“動き”が生まれるモビリティー視点と、電力視点を融合した、生活の最適化という視点を持つことが重要である。MaaS×エネルギーでは、モビリティーニーズとエネルギーニーズの最適解を出すことが求められるようになるのだ。
 

移動の効率化、ドライバー不足、移動弱者への対応・・・さまざまな課題に貢献

 
 そうした課題に対し、モビリティー側からアプローチを開始している例の一つが本田技研工業(以降ホンダ)による「Honda eMaaS」である。ホンダは従来手掛けてきたバッテリーや給電機、水素ステーションといったエネルギー事業をEaaS(Energy as a Service)とし、MaaSと融合させるコンセプトを打ち出した。移動の効率化、ドライバー不足や移動弱者への対応、低炭素、低価格での電力の安定化への寄与が主な内容である。

 EaaS、MaaS共に、鍵となるのはその電源=EVが現在どこにあり、どのような状況にあるかを把握し、最適に制御する技術である。ホンダはCASE対応によってつながり始めたEVを、さらにエネルギーニーズと接続することで、移動と暮らしをシームレスに繋げ、社会と生活者に寄り添ったモデルを描こうとしている。
 

人の移動を分析し、EV充電設備の最適化、そして電力安定化も

 
 一方、電力会社からのアプローチとしては、独InnogyがVC子会社を通じて実施したスウェーデン・Teralyticsへの出資は、まさにモビリティーニーズとの最適解を出す取り組みと考えられよう。Teralyticsは移動体通信網から収集されたデータから、人々の移動を分析・予測したデータを都市設計者や旅客事業者に提供するスタートアップである。InnogyはTeralyticsのデータを活用することで、需要家のモビリティーニーズを把握・予測することが可能となり、最適なEV充電設備の設置といった設備設計の高度化だけでなく、EVの移動を加味した動的なグリッドマネジメントの実現などが期待される。

 Innogyは、2017年より米スタートアップのOxygenとブロックチェーンを用いた充電設備での課金決済の実証を続け、19年にサービス開始にこぎ着けるなど、早い段階からエネルギーネットワークとモビリティーネットワークの融合に腐心してきたとも言える。

 こうした動きが今後も各国、各社によって促進されていくことは想像に難くない。次回は今回紹介したようなMaaS×エネルギーのコンセプトや実証から、サービス化に向け乗り越えるべきハードルと、その解決仮説について論考していきたい。

【用語解説】
◆CASE
独ダイムラーが自社の中長期戦略において用いた造語。「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」の4つの頭文字からなり、自動車の物理的な変化とともに、モビリティサービスの変化と重要性を示唆するものとなっている。

電気新聞2019年8月26日

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