様々な交通手段を統合し新たな移動体験を生み出すMaaSは、交通ジャンルの変革に止まらずエネルギー産業に及ぼす影響も大きい。MaaSの議論は、つい自動運転やドローンなどのアプリケーションレイヤーに集中しがちだが、スマートシティーにおいて土台となるエネルギーなどのインフラの高度化も重要な論点となる。近年の分散型電源の普及によりVPP(仮想発電所)市場の勃興が想定されるが、それに伴いグリッドマネジメントの重要性が高まっていくことが必至とされるなかで、MaaSはグリッドマネジメントの高度化において重要な役割を果たすことができる。
 

東電などが行った実証で、V2Gの技術確立

 
 太陽光発電などの再生可能エネルギーのさらなる普及拡大により、系統電力の運用は複雑化の一途をたどる。このような状況下、V2G(Vehicle to Grid)は電力グリッドの柔軟な運用に貢献できる可能性が高く、将来的にはV2Gによる調整力提供・系統安定化・系統スリム化が期待されている。

 昨年の東京電力を中心とした実証実験により、電気自動車(EV)と系統の間で電力を融通する技術の確立が示されたことは記憶に新しい。再エネ売電の逆潮流などによる電圧上昇や電力不足などによる電圧低下に対し、EVとPHEVからの充放電により電圧変動を抑制する(図1)際の制御指令に対する応答性と追従性について、秒単位での出力応答が可能であることが確認された。更には、高速通信環境と合わせることで遠隔地から秒単位の制御指令にも活用できる見込みである。しかしながら、このようなV2Gを有機的に達成するためには、電力融通における一定量のトランザクションが必要になってくる。従って、V2G参加者を確保することは重要な課題となり、いわゆるV2Gのサービス化に貢献するのが顧客接点サービスとしてのMaaSなのである。
図1_電圧変動抑制_4c
 

EVのドライバーへ充電情報をリアルタイム提供

 
 V2G×MaaSでは、電力需給情報に加えてモビリティーに関する残電池量や現在地等の各情報を融合させた情報統合基盤を通じて、電力の供給可能場所や需給状況などをEVとPHEVのドライバーへリアルタイムで情報提供することが基本的な提供価値となる。各ドライバーはアプリケーションを通じて取得した情報を基にグリッドへの放電や充電を行うことが可能となる。この際、場所や需給状況によって電力価格を変化させるダイナミックプライシングを取り入れても面白い。また、V2Hとの組み合わせにより、グリッドと家庭電力とEV/PHEVの系による新たなビジネスモデル創出への期待も広がる。(図2)

 EVの普及により逆に系統電力が不安定になる側面についても言及したい。そもそも系統グリッドはEVが普及することを前提に設計されたものではないため、EVが普及する未来のおいては、イベント開催地域や帰宅後の充電時間帯など、地域や時間帯によっては系統グリッドに大きな負担をかける可能性がある。これらを回避するためには、電力ピークシフトを助長するEVシェアリングサービスの促進や、EV充電におけるDR(デマンド・レスポンス)サービスの導入が有効と考えられ、ここでもMaaSは重要な役割を担うことになるのである。
図2_グリッドマネジメント_4c 

収益化には複数オプションが必要に

 
 このように電力システムとMaaSの融合により、多くのビジネス機会がもたらされることは疑う余地はない。しかし、デジタル技術を活用した効率化だけでは収益化は限界がある。MaaSを展開する事業者は、アプリ手数料課金モデルや広告モデルなどの複数のオプションの組み合わせで収益化を目指すことになるが、モビリティーサービス単体だけでのビジネスケースの成立は困難であると危惧されている。

 そこで、モビリティー以外の事業とも複層的に融合させて収益化を図ることが肝要となってくる。第4回はエネルギー×MaaSにおける新たなプロフィットプール醸成の可能性について論考する。

電気新聞2019年9月2日

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