モビリティーは「100年に一度の大変革の時代」と言われ、MaaS(Mobility as a Service)をはじめとした様々な変化が起きつつある。しかし、それらの変化はモビリティーの範囲だけにとどまらない。モビリティー変革の本質は、モビリティーが周辺産業の在り方をも変えていくということだ。そして、それはエネルギーも例外ではない。そこで本連載では、モビリティーとエネルギーの交点に表出されていく未来について展望したい。まず第1回では、昨今注目を集めるMaaSとは何かを紹介する。

 
図_Maas_4c

 都市部での交通渋滞や排ガス問題が世界的に深刻化する中で、MaaSというコンセプトが注目を集めている。MaaSとは「Mobility as a Service」の略であり、現在は鉄道やバス、自動車など個別に分断されている移動手段を、ユーザー視点から統合していくことを意味している。例えば、MaaSの先進国と言われるフィンランドでは、MaaS Global社による「Whim」というサービスが存在する。

 これは複数の交通手段間の案内検索・予約・決済などを情報連携によって統合したものであり、ユーザーからすると、複数の交通手段があたかもひとつのサービスであるように感じられる。このようなMaaSは欧州を中心として世界中でサービスが始まりつつあるが、一般的にはモビリティーの利便性向上を通じて、自家用車から公共交通へのシフトを促すことを目的としたものが多い。
 
 

モビリティーの最適化にとどまらない価値

 
 注目を集めるMaaSであるが、ここ最近はさらにコンセプトの発展が見られる。従来のMaaSは上述のようにモビリティーに閉じた最適化であったが、モビリティーのあり方を変えることで、モビリティーに閉じない新たな価値を創出することを目指した動きが加速している。

 例えば、米国のスタートアップであるUrban Enginesは、シンガポールなどで鉄道利用者へのインセンティブ提供(ポイント付与など)を通じて、鉄道利用のオフピーク化を目指している。これはモビリティーと都市政策とが連携した事例と言える。

 米国の不動産会社のParkmercedではCar―Free Living Programと称して、モビリティーサービス付きのマンション提供を始めている。従来の不動産価値は立地によって左右されていたが、モビリティーと不動産が連携することで、従来にない不動産価値の創出を目指している。また、ヘルスケアとの連携も始まっており、徒歩や自転車での移動に対して健康ポイントを付与することで、健康増進につなげることを目指した実証も存在する。

図_モビリティ_4c

 つまり、MaaSが見据えている範囲はモビリティーに限定されない。モビリティーが他産業や他サービスにとってのプラットフォームになりつつあるということが、MaaSによる本質的な変化である。そして、その対象はエネルギーも例外ではない。
 

EVの登場でエネルギーとの交点は広がる

 
 詳細は次回以降に紹介するが、電気自動車(EV)とグリッドを連携したエネルギーマネジメントなどが徐々に進みつつある。また、電動化の進展に伴って、必然的にモビリティーとエネルギーの交点は広がっていくはずだ。つまり、電力関係者にとっても、MaaSの動向は人ごとではない。

 また、より本質的には、実は電力(特に消費者接点側)も全く同じ構造であり、エネルギーも他産業に対するプラットフォーム化が進んでいるということを認識しておくことも重要だろう。例えば、家庭の電力データから在・不在を分析することによる宅配ルートの最適化や、域内での余剰電力のやり取りを通じたコミュニティー価値向上など、電力も他産業にとってのプラットフォームになりつつある。さらに、そもそもモビリティーとエネルギーは共に社会の根幹を支えるものであり、それらがデジタル化によって変わっていくことは社会システムそのものも変化していくということにほかならない。

 今後ますます重なりが広がっていくモビリティーとエネルギーの交点において、どのような未来が表出されていくのか。また、そこでどのような新たなビジネス機会があり得るのか。次回以降で具体的な事例も取り上げながら、その展望について考察を深めていきたい。

電気新聞2019年8月19日

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