電気自動車(EV)、特に建物やネットワークにつながったEVの機能(V2X)に大きな注目が集まっている。実はV2Xの欧州・米国でのビジネスの多くは、送配電設備の健全性維持と深く関係している。欧米においてV2Xがなぜビジネス化しているのか、規制当局はどう支援しているのかを見てみよう。

 欧州や米国のエネルギー企業経営者たちは、「EVによって初めてエネルギービジネスとクルマが接点を持った」ということを非常に強調する場合が多い。確かに今までこれら2つの産業は極めて接点が薄かったし、大量のEV普及は場合によって電力販売、ピーク対応、需給調整への貢献など、様々なポテンシャルを持っている。
 

配電会社の要請に合わせ「充電しない」を制御するサービスが登場

 
図_eMoterWerksのEVコンシェルジュサービス_4c

 では、代表的なEVチャージサービスベンチャーであり、イタリア・ENEL社が買収したことでも注目されている米カリフォルニア州・eMotorWerks社のサービスとビジネスについて見てみよう。

 eMotorWerksは、EV完成車メーカーでも充電器メーカーでもなく、本質的には充電制御のサービス事業者である。2015年から16年にかけて「ジュースネット」という市場価格連動の充電ソフトウエアを開発し、配電会社の充電制御指定に応じたDRプログラムを取り入れることによって、当時急増し始めたカリフォルニアのEV購入者にとって非常に使い良いサービスとなった。

 ここでいう配電会社のDRプログラムとは、V2Xによって需要増減を実現するDRではなく、「配電設備にとってのぞましくないときに充電しない」という「チャージ/ノット・チャージ」のコントロールサービスである。同社はこれをベースにEVの共同購入、DRプログラムの代行など自らEVコンシェルジュと呼ぶサービスラインアップを形成している。
 

同時充電による停電を懸念。DRに月間60ドル

 
図_V2Xのビジネス化_4c
 では、配電設備側はなぜこのようなDRプログラムを用意しているのだろうか。表1は、なぜ欧州やカリフォルニアのV2Xがビジネス化するかを整理したものだが、要は配電線の切り替えや大量逆潮への防御が効かず、日本の2倍の6キロワット充電が当たり前の欧州やカリフォルニアでEVが同時充電すると、配電設備が持たない、ということに尽きる。カリフォルニア州はこのDRプログラムにEV1台当たり月間60ドル前後を支払っているが、これも停電回避の対価だと思えば納得できる。

 こうした配電設備保護とV2Xの関係は、例えば個々のEVユーザーのニーズや一日の走行時間に合わせたデータ解析による最適充電時間コントロール、EVの群制御と配電線の状態をマッチングした最適化、さらに昼間の充電のケースでも系統全体の状態と組み合わせたサービスなどの新ビジネスを生み出す可能性がある。

 また、日本のように政策的事情によって1日前市場や当日(時間前)市場が低値誘導され、かつ電気事業者しか売買できない卸電力市場と異なり、個人やEV単位の電力売買が可能な欧州・カリフォルニアの市場ならば、市場の需給状況に応じた充放電でのビジネス化も可能となっている。

 日本で全く同じビジネスが同規模でビジネス化するのは難しいかもしれないが、規制当局や送配電事業者の系統安定化ニーズによっては、新たなデジタルビジネスを産み得る、という一つの事例を見ることができる。

電気新聞2019年4月1日

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