電力デジタル革命は、ただのブームや新ビジネスへの機運から、電気事業本体の根本的変革や規制政策の変化に大きな影響を与える段階へと進んできている。特に再生可能エネルギーの急速/大量導入、DER(需要側資源)の拡大の中で、送配電ネットワークや電力需給運用について、どのようなデジタル革新の取り込みが行われるかが非常に重要になってきている。

 電力デジタル革命と呼ばれる各種の技術革新が電気事業に与えている一番大きな影響は、新ビジネス発掘や新成長分野よりもむしろ、発電・送電・配電・顧客管理・顧客サービスという、いわゆる電気事業本業の効率化、変革と価値革新である、というのは、この「テクノロジー&トレンド」の連載で何度も強調されてきたところであるが、その変革や価値革新が極めて速いスピードで見られているのは実は送配電・系統運用部門、特に需要側資源(DER=Distributed Energy Resources)を使った電力安定供給革新、または新しく入ってきた需要側資源による系統への脅威回避である。

 もちろんそうしたDERの活用について、わが国でもVPP(仮想発電所)実証をはじめ様々な先進的な取り組みがなされているが、より具体的に、大胆にDER活用による新たな安定供給、例えば風力をはじめとする再生可能エネルギーの変動性の吸収、太陽光によるダックカープ問題への対応が進められているのは欧州や米国の送配電事業者や規制当局においてである。その理由は何だろうか。
 

メッシュ型とくし形、系統形状の違いが対応の違いをもたらす

 
 筆者はたまたま昨年秋の西日本における大型台風による被害、あるいは北海道でのブラックアウトの直後に、こうした問題について現地で欧米の関係者と議論する機会を持った。その中で感じたのは、これからの時代の送配電部門の強化についての一種の思想の違いである。

表1_常識_欧米日_4c
 表1がそれをまとめたものだが、欧州・米国では地域によって非常に速いスピードで再生可能エネルギーの普及が進んでおり、一方でその吸収のための⊿kW(調整力)は急に拡大することはできない。送電系統自体はメッシュ状で安定度が高いので、再生可能の量をコントロールしようとするよりは、むしろ需要側設置の小さな発電機や蓄電池、電気利用機器などを最大限活用してネットワークの安定化を図ることこそが現在必要なイノベーションである、というのがかなりの専門家たちの間での共通認識となっている。

 日本の場合は、くし形系統で、そもそも再生可能エネルギーの受け入れの絶対量に限界があり、一方、⊿kWの出し手である揚水やガスタービンに相当の余力がある。このため、地形的に可能な範囲の再エネ導入に対しては、送電線の強化や連系線活用拡大で工夫すれば、旧来型の電力供給システムを改良して十分対応できる。ここが日本と欧米との決定的な違いである。
 

次世代研では、ネットワークから独立した分散型グリットも議論

 
 とはいえ、将来的なDERの価格低下や大幅普及の可能性までを視野に入れれば、日本の送配電ネットワーク、特にユーザーに近い配電ネットワークの機能強化のためには、欧米の今の潮流を取り入れない手はない。

図_配電ネットワークの将来像_4c
 図1は、資源エネルギー庁で昨年10月から開かれている「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」において、関西電力が配電ネットワークの将来イメージを示したものだが、今までの電気事業者の発想にはあまりなかったネットワークから独立した分散型グリッドやIoT(モノのインターネット)で結び付いた分散型エネルギー資源による安定供給強化が示されているのが興味深い。

電気新聞2019年3月25日

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