図_技術開発_4c
 ドローンの目視外飛行を見据えた技術開発や安全支援技術などの取り組みについて紹介する。特に風に弱いドローンの飛行ルート管理・予測技術は重要であり、2018年7月設立の東京電力ベンチャーズと共に、秩父市の山間部で実証を進めている。長距離飛行の実現については、機体やバッテリー性能向上が過渡期であり、人手によるバッテリー交換から充電の自動化を目指したワイヤレス電力伝送への技術開発が動きだしている。
 

風力発電用技術を活用し、ドローン用風況予測手法開発へ

 
 目視外飛行可能な産業用ドローンの社会実装には、墜落リスクを想定した安全支援の技術開発が重要である。東京電力ホールディングス(HD)の経営技術戦略研究所では、ドローンが飛行する上空150m以下の風況予測技術開発に当たり、風力発電の風況予測技術を基礎に、日本気象協会と共同で早期の予測手法確立に取り組んでいる。

 なお、昨年7月に設立された東京電力ベンチャーズと協働し、送電線ルート上空を物流ドローンなどの空の道として活用する可能性を検討する取り組みを進めており、秩父市山間部において、風況観測と飛行ルート風況予測技術の研究開発を合わせて実施している。
 

鉄塔にLPWAの基地局を設置し山間部の飛行を可能に

 
 目視外での遠隔制御は、広域な通信手段が不可欠であり、LTEの上空での活用は、2016年頃から実用化試験局免許を用いた実証実験が通信キャリアを中心に各所で進められている。LTEはもともと移動体通信向けに開発され、またサービスエリアも広く、画像伝送が可能な通信速度であるため、今後、長距離飛行するドローン通信の一つとなると考えられる。

 ただし、山間部を含んだ、長距離飛行の安全確保を考慮すると、気象状況を把握するためのセンサー情報やLTE不感エリアの遠隔制御確保手段として、LPWAなどの広域なエリアを安価でカバー可能な通信網の構築も必要となる。そこで、送電鉄塔の基地局から複数の子局間との双方向通信評価を実施し、LPWAなどの有効性を確認している。

 飛行しているドローンからのリアルタイムな画像伝送ニーズなどの拡大を踏まえ、将来の5G回線活用を見据えて、ドローンの飛躍をサポートする重要通信インフラとしての面的な整備が今後求められる。
 

送電線点検技術やワイヤレス電力伝送技術の展開も

 
図_送電線自律制御実証_4c
 飛行中の物体の認識追従技術開発については、送電線のドローン点検をユースケースの一つとして、送電線の電線弛度に応じた自動追従の自律制御技術をブルーイノベーションと共同で開発している。

 研修施設において、弛度を緩めた送電線の横から離隔距離を一定に保ちながら、ステレオカメラミリ波レーダーによる自動追従に成功しており、多様な設備への応用も目指していく。

 長距離飛行や人手を介さないドローンの完全自動飛行システム実現に必要なワイヤレス電力伝送技術の確立に向け、研究開発を開始しており、ワイヤレス電力伝送システムの社会実装に貢献していく予定である。

 なお、墜落リスクは、ゼロにはできないため、送電線上空飛行時のトラブルに備え、人身・設備被害低減を目標にパラシュートなどの安全装備開発にも取り組んでおり、効率的で安全性を確保した多様なドローンの今後の活躍に期待を込めたい。

【用語解説】
LPWA(Low Power Wide Area)
低消費電力で数kmの長距離通信が可能となる無線通信。伝送速度は数百bps程度

ステレオカメラ
対象物を複数の異なる方向から同時に撮影することにより、その奥行き方向の情報を記録できるようにしたカメラ

ミリ波レーダー
ミリ波帯の電波を周囲に発し、反射波を検知して障害物の位置や物体との相対速度を求める装置。電波規制から、車載では77GHz帯、79GHz帯や準ミリ波の24GHz帯を利用

ワイヤレス電力伝送
導電体で接続されていない装置間で電磁的現象を利用して電力を供給するもの。近接では、磁界結合・電界結合方式、空間伝送ではマイクロ波などの電波方式が特徴

電気新聞2019年3月11日

 

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