東京電力ベンチャーズとゼンリンは送電線上空を安全な「空の道」として提供する「ドローンハイウェイ」の事業化に2017年から取り組んでおり、埼玉県秩父市において実証実験を行っている。昨年には楽天とドローンハイウェイを活用した物流サービスの共同検討を開始し、19年1月には補助者を配置しない目視外飛行に成功した。今後は、ドローンハイウェイを活用できるフィールドとして「テストコース」を設置し、スピード感を持って「ドローン社会」の実現に挑戦していく。
安全に長距離飛行できるルートとして期待される送電線上空
産業ドローンの社会実装に向けた大きな課題の一つは、安全な飛行空域の確保である。そこで弊社は地図国内最大手のゼンリンと提携し、送電線上空を安全な「空の道」として産業ドローン運用者に提供する「ドローンハイウェイ」の事業化に挑戦している。
送電鉄塔や送電線はドローン飛行の障害物と捉えられがちだが、その直上には障害物が無く、直下は比較的人の往来が少なく、周辺をヘリコプターなどの有人航空機が飛行する蓋然(がいぜん)性が低いため、安全支援技術を付加すればドローンのための空のネットワークとなり得る。
前回紹介したドローンが飛行する空域の風況予測技術やLPWAなどの通信技術に加え、ドローンが送電鉄塔に接触せずに安全に飛行できる空域を、ゼンリンの地図情報、ならびに計測技術などにより定義するなどの技術開発を進め、埼玉県秩父市において実証実験を継続的に行っている。これらの技術により、送電鉄塔や送電線に新たな価値が付加できる。また、将来的にはワイヤレス電力伝送技術を搭載したドローンポートをドローンハイウェイ上に設置し、長距離飛行を実現することも視野に入れている。
荷物配送実験で目視外飛行を実現。コンパスエラー回避空域の検討も
しかし、安全な飛行インフラだけでは産業ドローンの社会実装はままならず、ドローン運用者の視点を取り入れていくことが不可欠である。そこで弊社とゼンリンは、ドローン配送サービスの事業化に取り組むEコマース大手の楽天と、ドローンハイウェイを活用した物流サービスの共同検討を開始した。
共同検討の一環として、国土交通省・環境省の連携事業「平成30年度CO2排出量削減に資する過疎地域等における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」を採択し、今年1月には秩父市で荷物配送実験を行った。これは、補助者を配置しない目視外飛行で実施しており、国土交通省が2018年9月に改正した「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に基づき、国内で2例目となる。実験に当たっては、ドローン飛行空域の定義や同空域の風況情報の取得、それらを専用ビューワーによって楽天に提供することで補助者を配置しない目視外飛行を実現した。また、同実験ではルートの一部に稼働中の送電線を活用しており、強磁界によるコンパスエラーを回避できる空域を慎重に設定した。
テストコースの設置へ
さらに今後は、より多くのドローン運用者やドローン開発者向けに、ドローンハイウェイを活用できるフィールドとして、「テストコース」を設置していく。テストコースには弊社やゼンリンが開発中の技術も試験的に導入することや、ベンチャー企業を含めた多様な関係者を巻き込むことで、スピード感を持って「ドローン社会」の実現に挑戦していく。
【用語解説】
◆補助者を配置しない目視外飛行
第三者が存在する可能性が低い地域(山・海水域など)で国土交通省の承認を得ると実施可能。山間部への荷物配送や災害現場の被災状況調査、長大なインフラ点検などの社会実装に不可欠。
◆ドローンと強磁界
「無人航空機(ドローン、ラジコン機等)の安全な飛行のためのガイドライン(国土交通省航空局)」では「電波障害等により操縦不能になることが懸念されるため、十分な距離を保って無人航空機を飛行させてください」とされている。
電気新聞2019年3月18日