最近、その言葉を聞かない日がないくらいはやっているIoT(Internet of Things=モノのインターネット)。電子メールなどで日常的に利用しているインターネットが、一般に幅広く利用されるようになってからほぼ20年。インターネットは、仮想空間とか、サイバー空間と言われ、私たちが寝起きする実空間とは、別物として扱われてきた。しかし、その別空間が、私たちの住む実空間のあらゆるモノとつながると言われ始めた。一体、何が起きようとしているのだろうか。
 
図_インターネットの使われ方_4c
 

1990年代に商用化。2000年ごろから爆発的に広がる

 
 まず、インターネットの過去を振り返ってみよう。インターネットは、核攻撃を受けても通信途絶が極力起きないことを目標に、米国の軍事技術として開発された。1970年代頃のことである。その後、学術機関における使用時代を経て、世界各国で商用サービスが本格的に始まったのは1990年代である。当時は電子メールや電子ファイルの転送がやっとのことで、その後、スイスのCERNが開発したホームページを作成する技術であるWWW(World Wide Web)が商用化され、2000年頃になるとホームページやイントラネットなどのアプリケーション開発が活発化した。同じ頃、ADSLなど常時接続と呼ばれる通信サービスの提供も始まり、パーソナルコンピューター(PC)とインターネットの利用は爆発的に広がった。

 これらはたった20年くらい前の話で、そうなる前のPCは、ゲームくらいしか利用価値がないなどと揶揄(やゆ)されていた。

 しかし、今や私たちは、友人との待ち合わせ連絡や、電車の座席予約まで、何の疑問もなくインターネットで行い、日用品をネット通販事業者にオーダーし、ビデオすらもインターネット経由で楽しんでいる。外食などの日常行動では、インスタ映えも重要だ。もはや、インターネットは、なくてはならないライフラインのようだ。
 

機械対機械の通信で人間のために何を実現するか――

 
 インターネットでの通信について改めて考えてみると、情報は何と何の間でやりとりされていたであろうか。その多くは、人間対人間、もしくは、人間対機械のケースではないかと思う。前者は、友人との電子メールを思い浮かべれば納得できるであろう。後者としては、消費者がネット通販のサーバーにアクセスして、ミネラルウオーターを注文することなどが挙げられよう。

 インターネットがモノにつながると、上記に加えて、機械対機械の通信(M2M通信)が増えると言われている。人間不在にも思えるが、もちろん、人間が人間のために仕掛けるべきものである。

図_IoTはどんな価値を生み出すのだろうか_4c
 私の勤務する東京大学生産技術研究所には、COMMAハウスと名付けた実験ハウスがあって、様々な民間企業の方々と、多様な実験やデモンストレーションを行っている。その中で「ガスコンロが緊急地震速報を受信したら消火する」というシステムを試験動作させた。まさしく、機械対機械の通信である。緊急地震速報は、テレビやケータイ経由で人間がその情報を受け取り、受け取った人間自らが自分や家族を守る行動を取っているわけであるが、この例では、それを機械が直接受け取り安全を確保するという価値創造試行例である。

 この連載では、今後大いなる価値創造が期待されるIoTの光と影について、筆者が研究対象としているスマートハウスでの例を紹介しながら考えてみたいと思う。

【用語解説】
◆World Wide Web 
ホームページなどを作成する言語であるHTMLを中心としたハイパーテキストシステム。Webは「クモの巣」のことであるが、もはや、Webを検索すると、クモの巣は紹介されず、インターネットのWebのことが紹介されるほど一般化した。規格制定団体は、W3C(World Wide Web Consortium)。

◆CERN
スイス所在の欧州原子核研究機構(他の日本語略称もある)。WWWは、ここの研究用ツールとして開発されたと言われている。

◆M2M通信 
Machine to Machine通信の略表記。人間が介在せず、機械同士が情報をやりとりする通信。

電気新聞2018年8月20日