相生工場の開発実証パーク。右手前はCO2分離回収装置(燃焼後回収方式)の吸収塔・放散塔、左奥はクリーン燃料燃焼試験設備の排煙脱硫装置

◆石炭火力への適用見据え/ボイラー配管の技、メタン合成に活用

 IHIの相生工場(兵庫県相生市)が、主力製品をカーボンニュートラルに移行させている。石炭火力発電所向け大型ボイラーで燃料アンモニアを専焼する技術を開発するため、大量のアンモニアを供給できる設備を昨年導入した。ボイラーで培った配管技術で、メタネーション装置の製作も始めた。工場設備の二酸化炭素(CO2)排出量を「見える化」する装置を導入し、率先して脱炭素を牽引する。(匂坂圭佑)

 相生工場は製品を製作するだけでなく、敷地内に研究施設の「開発実証パーク(D&Dパーク)」を備える。ボイラー技術の改良や二酸化炭素(CO2)分離回収技術の開発を目的に据えたクリーン燃料燃焼試験設備では現在、大型発電所でのアンモニア専焼実現に向けた研究が進む。

 昨年導入した大規模アンモニア供給設備は、20トンのアンモニアを貯蔵できる。1時間当たりの供給能力を従来設備の10倍に当たる1.5トンに高めた。これまでも石炭にアンモニアを20%混ぜて混焼する研究は可能だったが、専焼を実現するため大型設備を設置した。相生工場の上道良太工場長は「専焼に向けた試験設備が整った」と話す。

 燃料アンモニアは相生工場の製品を変える。国内での建設需要が一服したLNGタンクの知見を生かし、アンモニア貯蔵タンクを製作できる技術の習得を目指す。IHIはLNG受入基地をアンモニア受入基地に改造できる技術開発を進め、2020年代後半に社会実装したい考えだ。

 ボイラー製作で蓄積した配管の溶接・設計技術で、メタネーション装置の製作を昨年始めた。コンテナに収めた小型の標準機で、初号機をIHIの「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」(福島県相馬市)に納めた。地域のバスに合成メタンを供給している。東邦ガスなどからもメタネーション装置を受注し、年度内に複数台製作する。小型機で多くの顧客に活用してもらいたい考えだ。

 CO2排出量の「見える化」も始めた。相生工場の敷地内に複数ある工場のうち、プラント向け配管やメタネーションなどを製作する桜ケ丘工場に見える化装置を導入。各製造装置の消費電力量やLPガス量からCO2排出量を表示する。自社の燃料消費や外部からの電力調達に起因するスコープ1、2の温室効果ガス排出量に加え、販売製品の排出量が含まれたスコープ3まで把握する。今後全社の工場に見える化を広げていく計画だ。

 相生工場に設けられた展示室は22年、「クリーンコールミュージアム」から、「カーボンソリューションミュージアム」に名称を変更。展示も一新した。アンモニア燃焼やバイオマス製造、メタネーションなど、時代の変化に合わせた技術を集めた。上道工場長は経営環境の変化を踏まえ「これから先、色んな製品をつくれるようにするためには、スキルの幅を広げていく必要がある」と話す。

電気新聞2023年8月28日