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 前回までに世界および日本におけるVPPの成り立ちを紹介した。今回、VPPビジネスの現状について説明する。既に紹介したように、欧米においてはVPPビジネスが、卸電力市場・容量市場、調整力市場等の各市場や電力会社向けに既にビジネスを展開している。一方、日本においては電力システム改革に合わせて検討が進められてはいるものの、現状ではVPPビジネスとしてサービス対価を受けるための仕組みが十分には整っていない。今回は、将来に整備される各種市場を想定した日本での実証事業の現状について紹介する。
図_VPPアグリゲーターによるサービス_4c

 

期待される需給調整力。分散型電源やDRの位置づけが必要に

 
 VPPビジネスが既に展開されている欧米においては、再生可能エネルギーのアグリゲーターあるいはDRアグリゲーターは、容量市場や、スポットや当日などのエネルギー市場、さらには調整力市場に参加し、応札・落札している。つまりVPPは、容量市場では小売り事業者向けの長期的な供給力として、エネルギー市場では発電所と同等の機能を有する電源として、また調整力市場では送配電事業者にとってのゲートクローズ後の需給調整力として、それぞれ役割を果たしているといえよう。

 一方、日本においては、DRビジネスとして2017年度から送配電事業者による調整力公募が開始され、電力システム改革に合わせて、容量市場や調整力公募のその先を受けた需給調整市場などの検討が進められている。

 しかし、現状では、供給力としての分散型電源やDRの位置付けが明確ではなく、VPPビジネスとしてサービス対価を受けるために必要な各種市場制度が整っていない。従って、現在、日本でのVPPビジネスが成り立っているとはいえないが、前回紹介したように、将来整備される各種市場を想定した実証事業は既に進められており、技術や経済性についての検証を行っている。16~20年度の5カ年計画で推進される経済産業省のVPP構築実証事業に採択されたコンソーシアムは、17年度は6チーム。この他にも、独自に実証を行うことを表明している新電力や大手電力会社等が複数存在する。
 

利益最大化へ、分散型電源保有者などの市場参加も必要に

 
 VPPのビジネス化には、提供サービスコストの革新とVPPの能力を反映できる市場制度面の整備、指令への反応スピード向上や確実性の向上が主要課題である。一方、VPPがビジネスとして成立するには、需要家自身へのサービス提供に加えて、分散型電源保有者や蓄電池保有者のアセットや利益を最大化するように、卸電力市場のみならず、容量市場やアンシラリー(需給調整)市場などに参加し、エネルギーリソースの種類や特性に応じてサービスを提供することである。こうした統合されたサービスを提供することで、VPPアグリゲーターやDRアグリゲーターとしてのビジネス基盤が強化され、ひいては需要家サービスも向上していくことになる。

 一例として、関西電力が中心となって実証しているVPP実証補助事業の内容を紹介する。

 2016年度は、VPPの基本的なシステム構築を行い、クラウド上のサーバーから給湯器や電気自動車、蓄電池等のエネルギーリソースまでの疎通確認と動作試験を通じて、エネルギーリソースの遠隔制御の技術的実証を行った。2017年度は、コンソーシアムを組む企業の全てのサーバーとの連携を行い、実証に参加する全てのエネルギーリソースの遠隔制御の実証を行った。実証内容としては、送配電事業者の指令を受け関西電力の統合サーバーから、応答速度の速い制御(調整力公募電源Ⅰb相当)に加え、上げDRと下げDR双方の制御を行った。2018年度以降は、さらなる制御の正確性向上を図っていることを予定しており、今後創設される新たな市場に向けた準備を着実に行っている。
表_各制度導入時期_4c


【用語解説】
◆調整力公募
一般送配電事業者が、電力供給区域の周波数制御・需給バランス調整を行う際、2017年度から必要な調整力を公募の手続きにより実施することとなった仕組み。ハイスペック・高速発動からロースペック・低速発動の募集区分として、3区分がある。

◆下げDRと上げDR
電力供給状況に応じて、スマートに需要パターンを変化させること、いわゆるデマンドレスポンス(DR)の変化には需要抑制と需要増加の2通りが考えられ、前者を下げDR、後者を上げDRと呼ぶ。

電気新聞2018年6月4日

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