<<前回へ

 

 世界におけるVPPビジネスの成り立ちを前回紹介したが、今回は日本におけるVPP実証の成り立ちの経緯を紹介する。日本では、米国でのDRアグリゲートビジネスを参考に、需要家側エネルギー設備を集約し、統合的に遠隔制御するスマートコミュニティー実証での長年の経験を踏まえ、産業競争力懇談会(COCN)提言のリソースアグリゲーターのアイデアを展開することによって、現在の本格的なVPP実証につなげた。
 

米国のDRビジネスを参考に

 
 日本において、需要家側エネルギーリソースを集約し遠隔制御する「VPP実証」の嚆矢(こうし)となったのは、2009年度のスマートコミュニティー実証である。米国でのDRアグリゲートビジネスの隆盛を参考にしたこの実証は、分散型電源および需要家側エネルギーリソースを遠隔制御するもので、2013年度まで実施された。ただ、DRを実証するという意味での技術的意義はあったものの、ビジネスの観点からは、主に料金誘導型のDRを中心に実施するにとどまっており、離れた場所でのエネルギーリソースをアグリゲートしてシェアリングやマッチングを行うという、VPPビジネスの根幹の検証までには至らなかった。このようにVPPに近い実証は、最初はDR実証として始まった。

 これと並行して産業競争力懇談会が、「リソースアグリゲーター」の在り方と社会実装に向けた課題の整理、技術面・制度面の提言を含む報告書を2015年3月にまとめた。

T&T VPP 2回目
 
 リソースアグリゲーターとは、今後普及拡大する再生可能エネルギーの余剰電力や出力変動の問題を、情報通信技術(ICT)基盤を活用し、需給調整力を提供することで解決するというもので、様々なステークホルダーが同時にメリットを享受できるビジネスモデルである。ここで、現在のVPPの考え方が出そろうことになった。
 

産官学での推進体制整い、2016年度からVPP実証が始まる

 
 これを実現するため、経済産業省は2015年8月、2016年度概算要求として「VPP構築実証事業」案を提示。2015年11月には、首相から官民対話の場で2017年までのネガワット市場創設の指示があったこともあり、2016年1月には官民連携の「エネルギーリソースアグリゲーションビジネス検討会」が、2016年2月には産学連携の「エネルギーリソースアグリゲーションビジネスフォーラム」が活動を開始し、VPPビジネスの社会実装に向けた推進体制が整った。

 2016年度から始まった経済産業省の「VPP構築実証事業」の補助事業には、2016年度に7チーム、2017年度には6チームが採択されている。関西電力を中心とした企業コンソーシアム「関西VPPプロジェクト」など各事業者をはじめ、VPPシステムを構築するとともに、需要家側エネルギーリソースを活用した遠隔制御実証が行われている。
T&T VPP 2回目 表
 
【用語解説】
◆リソースアグリゲーター
電力の需要家が所有し送配電網に接続されている分散エネルギー資源をネットワークで結んで集約し、仮想的な発電所に見立てて、系統運用者、電力市場、電力会社等に集約した調整力や供給力等の電力を供給、販売する事業者のこと。

◆エネルギーリソースアグリゲーションビジネス
リソースアグリゲーターの事業に加え、需要家のエネルギー設備を遠隔で制御することで、需要家自身へのサービス提供を含めたビジネス。

電気新聞2018年5月28日
 

次回へ>>