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 最終回の今回は、VPPビジネスの未来について紹介する。VPPシステムの核心部は、個々の需要家にハードとソフトの窓口(ゲートウエー)を設置していること、その窓口そのものが双方向通信できることにある。このVPPシステムの特性と性能を生かして、VPPビジネスを展開する未来は、蓄電池活用プラットフォームビジネス、電力直接取引プラットフォームビジネスなどが想定される。電力デジタル技術の革新や分散型エネルギーリソース活用の進展は、VPPシステムに親和性があり、VPPビジネスの未来は明るいと考えられる。
 

GWを通じてプラットフォームの双方向通信を確立する

 
 VPPシステムの核心部は、需要家のエネルギーリソースに直接つながるVPP用ゲートウエー(GW)の確保と、このGWを通じてVPPプラットフォームの双方向通信を確立することの2点である。

 これまでも同様の機能を持つHEMS(家庭用エネルギー管理システム)と呼ばれる装置により、家庭内のスマート家電などを監視・制御することはできた。しかし顧客にとって「一体何ができるのか」という観点が不足しており、普及は不十分であった。

 この点、VPPシステムは、GWの双方向通信機能とクラウド上のVPPプラットフォームにより、需要家側の電力使用量・発電量などの見える化や機器の監視を行うと同時に、外部にある気象情報などのデータベース(DB)や高性能人工知能(AI)を活用することで、顧客や外部の状況を踏まえた最適な需要家側機器の制御を可能にする。

 また、このVPPシステムは顧客が生み出した便益を、顧客だけでなく他の顧客へも提供できるようになる。これが実現できれば、VPPビジネスは、飛躍的にサービスメニューを増やすことができる。

図_蓄電池等活用ビジネス_4c
 

自家消費から見守りまで。多様なサービスの展開が可能に

 
 VPPビジネスと親和性のある将来のビジネスを展望してみよう。

 まず第1の方向性として考えられるのは、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)切れの太陽光発電(PV)を保有する需要家に対するサービスである。今後、再生可能エネルギーが大量に普及するに従い、小売り電力料金が上昇し、FIT買取価格が低下していく。PV保有需要家にとっては、買い取り期間終了を契機に、余剰電力の売電収入が激減することが想定される。そうなれば電力系統側へ逆潮流するインセンティブは少なくなり、自家消費を増やす行動を考えるかもしれない。ただし、時間ごとの消費量と再エネ発電量を宅内でなるべく一致させる必要があるため、定置型家庭用蓄電池や車載蓄電池(EV・PHV)を設置するインセンティブが生じる。この時、需要側の蓄電池やEVを最適運用し利益を最大化するため、VPP用GWを通して遠隔で監視制御するVPPビジネスの機運が生まれる可能性がある。

 第2に、需要家側PVからの逆潮流を、電力会社が介在しない個人間直接取引(電力P2P取引)で他者に提供するケースが考えられる。この際、個人間の電力取引をセキュアにする必要があることから、ブロックチェーン技術を活用して、VPP用GWでPVの逆潮流を把握し、VPPプラットフォーム上で取引するというようなVPPビジネスの可能性もあるだろう。

図_電力P2P取引ビジネス_4c
 
 第3に、見守り、ホームセキュリティー、ヘルスケアなどエネルギー以外の分野においても様々な顧客サービスを提供できるプラットフォームとして、VPPプラットフォームを活用する方向性が考えられる。この際、人とVPPシステムとのインターフェースは、VPP用GWだけでなく、AIスピーカーと連動させることも有効な手段と思われる。

 以上、VPPシステムの特性を生かしたVPPビジネスは、将来には様々な顧客サービスのプラットフォームとなる可能性を内在している。電力のデジタル化とも相互関係し、明るい未来が広がっているのではないか。

【用語解説】
◆電力P2P取引
P2PはPeer to Peer(ピア・ツー・ピア)の略で、元々は複数の端末間で通信を行う方式。電力取引の場合、個人の太陽光発電などの分散電源で発電した電気を、別の個人の消費者へ送ることで直接取引することをいう。

◆ブロックチェーン
分散型台帳技術とも呼ばれ、仮想通貨ビットコインの中核技術を原型とするデータベースのこと。ブロックと呼ばれる順序付けられたレコードが連続的に増加するリストを持つ。各ブロックには、タイムスタンプと前のブロックへのリンクが含まれており、一度記録するとブロック内のデータを遡及(そきゅう)的に変更できない。P2Pネットワークと分散型タイムスタンプサーバーの使用により、自律的に管理される。

電気新聞2018年6月11日

(全4回)