経済産業省と環境省がそれぞれ有識者会議で議論しているカーボンプライシング(炭素の価格付け)を巡り、両省のすみ分けが鮮明になってきた。経産省はJ―クレジット制度や二国間クレジット制度(JCM)などのクレジット取引を重点的に議論する。一方、環境省は炭素税と排出量取引制度に軸足を置く。両省とも今夏に中間整理をまとめる予定だ。

 経産省は2月に有識者会合を立ち上げた。4回目となった4月の会合でクレジット取引の活性化策を重点的に検討する方針を提示。企業の再生可能エネルギー調達や、二酸化炭素(CO2)削減のニーズにクレジットで応えられるとした。クレジット発行量の拡大を今後の検討課題とした。

 省エネルギーや再生可能エネの導入による温室効果ガス排出削減や、森林管理による吸収量を認証するクレジット制度は「炭素税や排出量取引と異なり企業に負担がなく、受け入れられやすい」(政府関係者)仕組みだ。経産省は炭素税や排出量取引に「国民的な議論が必要」、「慎重な検討が不可欠」といった姿勢を示す。一方、クレジット取引を活性化させれば炭素価格水準の把握や排出量の調整に活用でき、炭素税と排出量取引とも連携可能と指摘。将来の導入議論に備え、まずクレジット取引を整備する。

 J―クレジットやJCMは政府が運営する。予算が限られる中、取引量の拡大に向けて民間企業の自主的な排出削減行動をクレジットに取り込んでいくことを検討する。5月の会合から具体的な議論に着手する予定だ。

 環境省は2月、カーボンプライシングの有識者会合を1年半ぶりに再開。カーボンニュートラルの時間軸に合わせ、炭素税と排出量取引を段階的に強化していく制度素案を示した。クレジット取引は3月の会合で議論したが、事務局から具体的な提案は出なかった。再開前の議論でクレジット取引を炭素税と排出量取引と同列に扱っていなかったため「違和感を覚える」と指摘する委員もいた。

 負担を伴う炭素税や排出量取引の導入に国民の理解を得るためには、時間を要することが予想される。環境省は6月以降の会合で、制度導入時の経済効果や排出削減効果などの試算を提示し、議論を加速していく考えだ。

電気新聞2021年5月10日