政府は4月13日、東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水について、海洋放出方式を採用することを決定した。放出設備の構築や原子力規制委員会による審査を経て、2年後をめどに放出する。処理水放出に伴う風評を最大限抑制するため、政府は地元水産物の水揚げ量増加や流通ボトルネック解消などを支援するとともに、被害が生じた際も賠償に機動的に応じるよう、東京電力ホールディングス(HD)を指導する。

 同日、「国内で放出実績がある点やモニタリングなどを確実かつ安定的に実施可能な点を評価し、海洋放出を選択する」との基本方針を関係閣僚などによる会議で決定した。政府は「2年程度後」の放出開始に向けて、設備の準備を進めるよう東電HDに求めた。


福島第一原子力発電所敷地内に林立するALPS処理水の保管タンク(2021年2月12日撮影)

 ALPS処理水を巡っては、専門家による「トリチウム水タスクフォース」「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で6年以上の議論を重ねた。小委はタスクフォースが「技術的に実施可能」とした5つの処分方法を評価。「タンク増設の余地は限定的」とした上で、「水蒸気放出か海洋放出が現実的な選択肢」であり「海洋放出がより確実に実施可能」とする報告書をまとめた。

 その後、「関係者の御意見を伺う場」を7回にわたって開催。地元自治体や漁業関係者など29団体・43人から意見を聞いたほか、並行して国民からの意見も公募し、4千件を超える意見を集めた。これらの意見では、風評被害への懸念が多く示された。

 政府は2020年10月に処分方法の決定を試みたものの、風評への不安が解消されずに決定を先送りにした経緯がある。今回の基本方針では、こうした声に配慮し、詳細な風評対策が盛り込まれることになった。

処理水放出の政府決定を受け、梶山経産相は福島県を訪問。内堀知事(左)に方針を伝えた(4月13日)

 国民理解の醸成につながる「科学的根拠のある情報発信」に向けて、国際原子力機関(IAEA)と連携。風評を抑制するため、地元の水産業者や仲買・加工業者の支援を徹底する。21年度は風評払拭などに25億円の予算を計上した。

 これらの対策を講じてもなお風評が生じる場合は、既存の賠償の枠組みの中で「被害の実態に見合った必要十分な賠償を迅速かつ適切に実施」するよう東電HDを指導。必要に応じ、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)でも調査・審議を実施する。

 将来想定し得ない風評が起こることも考慮し、必要な対策を行うための「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」を新設する。トリチウム分離技術は実用化段階にないため、今後も技術動向を注視していく。

 政府は「規制基準値を超える放射性物質を含む水、あるいは汚染水を環境中に放出するとの誤解が一部にある」とし、今後は“トリチウム以外の核種が規制基準を満たす水”のみをALPS処理水と呼称すると決めた。

 トリチウム以外の核種が規制基準を満たしていない水は、処分前にALPS処理水になるまで再浄化を実施。ALPS処理水自体も飲み水の基準より低い放射性物質濃度まで希釈し、放出する。

 また、「汚染水」と「処理水」の違いを明確化するため、現行の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議は「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」に改称する。

 基本方針では、東電HDの信頼性についても言及した。東電HDは過去、川村隆会長(当時)が海洋放出を既に決断したかのような発言を行い、地元の反発を招いた。基本方針では、直近の柏崎刈羽原子力発電所での一連の事案に触れ、「これまで以上に厳しい目が向けられていることを真摯に受け止めなければならない」とした。

電気新聞2021年4月14日

<参考>電気新聞特設サイト:トリチウムの基本Q&A