前回は、実際にEVで少し長めのドライブをした経験をご紹介した。電気新聞は電力ご関係者も多くお読みと思うので、今回は、電力システムとEV、特にEV充電との関係について考えてみたい。デマンドレスポンス(以下、DR)の資源としてEV充電を活用することは、随分前から研究されてきたが、EVの普及がいまひとつということもあって、これが私たちの身の回りにあるわけではない。今回は、改めて電力システムとEVをDRというキーワードでつないでみよう。
 

適時性の強い電力需要。適時性の弱いEV充電を制御してDR資源に

 
 DRという概念は、2005年に米国で生まれた(EPA2005)とされているが、それは、脆弱な電力インフラの弱点をカバーするための「需要抑制型」であった。しかし、現代の我が国のように太陽光発電が余剰になる季節や時間帯があると、「需要創出型」のDRの必要性が増えてくる。EV充電は、このタイプのDR用資源として期待されている。

 電力の需要には、適時性という問題がある。これは「いつ使わなければならないかを表す特性」とでもいうようなもので、例えば「暑いときにエアコンを使う」や「暗ければ照明をつける」というものである。DRの手法として、電力の価格を変える方法があるが、需要は期待したほど多くは変化しないことが報告されている。これは、○時間後に電気の価格が半分になると言われても、今暑いんだから今エアコンを使わなければ意味がない、というような性質のためであって、このような需要を適時性が強い、という。図1に家電品の適時性の例を示す。V2Hや家庭用定置型蓄電池があるとこの表は変わるがここでは省略する。


 EVの充電はどうであろうか。自宅での充電で、明朝までに充電が終わればいいのであれば適時性は弱いと考えられる。家の契約電力の多くは60A以下であるが、家の中の他の需要と合わせてこの値以下になるようにうまく制御できれば、DR資源として利用できそうだ。例えば、サービスブレーカーの上限値まで20Aの余裕がある時に、200Vで10Aの充電を行えばこれは2キロワットのDR資源となる。

 ここで活用できそうなのが、スマートメーターのBルートである。家庭でEV充電をしていると、ブレーカーが落ちてしまうという話を聞くことがある。図2に示すように、Bルート情報を基にEVの充電電力を制御すれば、この問題は根本的に解決するし、小売価格などとも組み合わせれば、高度な電力小売りメニューが作れるだろう。もちろん、このような制御には、充電器をIoT化してそれを事業者が制御することが必要となる。
 

 

急速充電は適時性強い。自宅と目的地での充電がDR向き

 
 では、DR資源として高速道路のサービスエリアなどにある急速充電スタンドはどうだろうか。DRというのは、必ず電力システム側の都合とユーザー側の都合の板挟みに遭うものである。急速充電は、ユーザー側の都合がとても強い、すなわち適時性が強いものであり、電力システム側の都合で起動/停止できないであろう。また、渋滞などのため、この需要の発生タイミングはブレ幅が大きそうだ。このため、急速充電はDR資源としての素質はあまりなさそうである。

 EV充電は、自宅での充電を「基礎充電」、サービスエリアなどでのものを「経路充電」、勤務先やホテルなどでのものを「目的地充電」と呼ぶ。DR資源としてのEV充電を適時性という尺度で大まかに整理すると、「基礎充電」と「目的地充電」は○、「経路充電」は×ということになる。
 

平時は需要創出型、非常時は抑制型としてDRを活用

 
 近年地震・台風といった自然災害が多発し、電力供給に支障が生ずることが多くなっている。筆者は、平時はDRを太陽光発電の余剰吸収用など「需要創出型」として機能させ、自然災害発生などの非常時では「需要抑制型」として働かせることが適切と考えている。

【用語解説】
◆EPA2005 
2005年制定の米国法律「Energy Policy Act 2005」のこと。同法に基づき連邦エネルギー規制委員会(FERC)が2006年8月に発表した報告書「Assessment of Demand Response & Advanced Metering」では、DRを「系統信頼性の低下時または卸市場価格の高騰時において、電気料金価格の設定またはインセンティブ(対価)の支払いに応じて、需要家側が電力の使用を抑制するよう電力消費パターンを変化させること」と定義した。

◆V2H 
Vehicle To Homeの略。EVに蓄えられている電力を家庭用電源として使用すること。

電気新聞2020年11月16日