東京電力ホールディングス(HD)は、2050年の二酸化炭素(CO2)排出ゼロに向けたシナリオ「ユーティリティー3・X」(U3・X)をまとめた。洋上風力発電を軸とする再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及とともに、電気から水素ガスをつくるP2G(パワー・ツー・ガス)によって間接電化を推進する。製鉄や化学で間接電化が進めば、年6500億キロワット時の電力需要創出にもつながる。

 供給面では、浮体式洋上風力の導入拡大とコスト低減の進展により、着床式から浮体式に主力電源の軸足が移ると想定。電力系統は再生可能エネの導入拡大に対応するため、直流送電によるスマート化を進める。ストレージ・パリティーによって大量に普及したEVや家庭用蓄電池の活用も見込む。

 需要面では、再生可能エネ由来のグリーン水素を軸としたP2Gによって、鉄鋼や化学など原材料に石油と石炭を使う産業の間接電化を進める。製鉄は水素還元方式が確立し、既に欧州で実施されているほか、化成品のエチレンやプロピレンも原料のメタノールとエタノールの合成に水素を使う研究が進んでいる。

 運輸部門はEVとともに、グリーン水素を原料とするアンモニアを船舶の燃料として使用する。水素やアンモニアは発電用燃料としてのポテンシャルもあり、再生可能エネのしわ取りでの活用を見込む。

 U3・Xは、「ユーティリティー3.0」(U3.0)の先を見据えたシナリオ。東電HD技術戦略ユニット技術統括室の難波雅之室長が中心となって策定した。

 U3.0は「5D」の考えに基づいていたが、U3・Xは洋上風力発電のような集中設置型電源の増加を踏まえ、単なる分散化(ディセントライゼーション)ではなく、多様化(ダイバーシフィケーション)を重視する。新型コロナウイルスの影響も受け、新たな「D」として国内回帰と地域ブロック化(ドメスティック)を加えた。

電気新聞2020年12月3日