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「人間工学」の観点を踏まえ考案されたあぐら座り作業用のクッション

 中部電力は三重大学との共同研究で、変電所作業の負担を軽減するアシスト器具を開発した。機械や装置、作業環境を人間にとって使いやすいものに設計する「人間工学」を電力分野に適用する研究を2016年度から始め、姿勢評価による分析から変電所作業に潜む体への負担を定量化。「あぐら座り作業」などの負担軽減につながる器具の考案と改善を重ね、製品化にめどをつけた。現場作業員の高齢化が進む中、労働災害防止、作業時間短縮などに役立つことが期待される。

 変電所地下室での制御ケーブルの取り扱い作業はあぐら座りになることが多く移動も頻繁なため、床に敷かれたケーブルの影響で座面が不安定になるという事情がある。中部電力と三重大による分析では、現在の作業姿勢での股関節の角度(股外転角度)が可動域の限界角度である45度を超え、改善が必要との結果が出た。

 そこで、座位高さを確保し、背筋を伸ばしながら股への負担を軽減するクッションを考案。使用時の股外転角度を45度以下に抑えた。クッションの素材も柔らかい低反発ウレタンフォームと硬い発泡ポリエチレンシートを用いた「柔―硬―柔」の三重構造とすることで、不安定な座面に適合しやすくした。臀部への密着には面ファスナーを用いて移動時の持ち運びを不要としている。

 試作品を変電所の現場で使用しながら構造の改善に努め、クッションの大型化や臀部への固定具の見直しなどを行った。改善の成果として、屋外機器作業や制御盤操作など、あぐら座りの作業全般に活用できるようになったという。

 あぐら座り以外の変電所作業では、ガスボンベの運搬作業で腰への負担が大きいことが分かり、ボンベに八角形の金属製リング把手と底部ゴムを取り付ける負担軽減策を考案。変電所での試行により、運搬時の作業負担軽減とともに時間短縮にもつながったことを確認している。

 人間工学に基づいて分析評価を行った作業は、中部電力社員や請負業者に対し、日頃から負担を感じる作業について聞き取った上で抽出した。分析手法には「OWAS法」と呼ばれる作業姿勢評価や国際規格などを用いた。

 開発されたクッションと八角形リング把手は、サンケイ(三重県鈴鹿市、岡田篤典社長)によって一般販売される予定だ。

電気新聞2020年11月16日