川崎中学校に寄贈された鉄塔の頂部

 校歌にも出てくる思い出の鉄塔を残してほしい――。地元の中学校からこんな要望を受け、東京電力パワーグリッド(PG)が除却工事で撤去した送電鉄塔の一部を寄贈した。日頃から邪魔者扱いされがちな鉄塔にこうした声が寄せられるのは珍しく、東電PG川崎支社の大塚勝巳・送電技術グループ運営チームリーダーは「設備を保守する者としてうれしかった」と胸を熱くしている。

 くだんの鉄塔は川崎市立川崎中学校の校庭の中に建っていたが、地中線化工事に伴い、撤去が決まった。東電PGが工事を申し入れたところ、学校側から「シンボルがなくなってしまうのは寂しい」との声が上がった。

 川崎中学校は創立65年を迎えるが、それよりも前に鉄塔は建てられており、校庭の風景の一部になっていた。校歌にも、歌い出しの部分に「六郷渡る朝風に輝く雲よ鉄塔よ」との一節があり、在校生や卒業生には慣れ親しんだ存在でもあったという。

 そこで学校側が「何とか後世に残すことはできないか」と東電PGの用地担当者に話を持ち掛け、神奈川建設センターがどのように鉄塔を残せるかを検討した。その結果、35メートルほどの高さがある鉄塔のうち頂部2・5メートルを寄贈することになった。

 地中線化に伴う鉄塔除却工事は今年3月に始まり、鉄塔の頂部は10月になって学校に寄贈された。現在は学校の敷地内にあり、校門から校舎に入る際に目にすることができる位置に建てられている。
 保存される鉄塔は6万6千V渡田線(旧中島線)の6号鉄塔で、1953年に建造された。火力発電所と京浜工業地帯に近く、経済の発展を長らく支え続けてきたが、今回の除却工事でその役目を終えた。

電気新聞2020年11月20日