◇東北大内にサイエンスパーク/企業と幅広く共創活動展開

 第3回では、いままで出会うことのなかった人々が、「新結合」し、課題解決のためのイノベーションを始める「コアリション(有志連合)」の場として放射光施設ナノテラスが機能することを述べた。コアリション会員は、学術界の研究者の紹介を受け、秘密保持契約のもと、その力を使って課題解決に集中できるようになる。今回は、脱炭素化や資源循環など、個別の産学共創だけでは解決不能な社会課題への挑戦を始めたコアリションの進化について紹介する。

 ◇付加価値を拡大へ

 官民地域パートナーシップのメンバーである東北大学は、コアリションの仕組みを強化し、付加価値をさらに拡大するいくつかの取組みを用意している。

 東北大学青葉山新キャンパスにナノテラスが稼働予定であり、その西側に隣接する4万平方メートルの土地を「サイエンスパーク」として整備中。すでに研究棟及び民間共同研究施設がほぼ完成しており、民間企業、東北大学や他大学の研究開発拠点が入居予定である。

 また、企業が学内に研究開発機能や人材育成機能の拠点を設けることができる仕組みである「共創研究所」制度を創設。この制度を活用して、多くの企業が学内に連携拠点を構え、様々な学内インフラを活用して幅広い共創活動を企画・遂行している。これらにより、サイエンスパークが多様なステークホルダーが集う共創の場となり、さらに東北大学が「共創プラットフォーム」となることで、新たな社会価値創造が生み出されることが期待される。その戦略的な事例をみてみよう。

 ナノテラスの利用を見込むある企業は、自社製品に関連して発生する廃棄物を回収して、再生プラスチックとして資源循環するための開発を行っている。そこではナノテラスのデータが重要な役割を果たす予定だが、それを品質改善につなげるためには、再生材の強度等をシミュレートする計算科学との「新結合」が必要であった。そこで、共創研究所を設立して、専門家の知恵との融合を図ったのだ。

 

 ◇国際連携が不可欠

 だが、話はそこで終わらない。資源循環は、多くの企業、大学が抱える共通の技術課題であり、グローバルな社会課題だ。グローバルな問題に向き合うには、国としての取り組みと、国際連携が不可欠であり、個別の研究開発を超えるゲームチェンジが必要となる。

 例えば、複数の企業、大学等が参画する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム「サーキュラーエコノミーの構築」がある。そこでは、再生プラスチックについて、ナノテラス他を活用して内部構造や品質のデータを測定して、再生材のデータバンクを構築する予定だ。再生材製造業者は、自社のデータを引き出し、商談や品質改良に使うことができる。これと並行するかたちで、先の企業は共創研究所の開発課題について、「サーキュラーエコノミーの構築」の開発テーマとしても採択を受けて参画を決めた。

 さらに、この国プロでは、先頃、11カ国とEUからステークホルダーが参加する国際シンポジウムを開いた。そこでも参画する企業はポスター発表し自社のプレゼンスを示した。

 このようにナノテラスとサイエンスパークは、多くの企業と学術の参画がなければ不可能な大きな流れとの「新結合」を生む場ともなっている。

 最終回は、これまで述べた多段階の「新結合」が生むイノベーションエコシステムについて述べたい。

◆用語解説

 ◆戦略的イノベーション創造プログラム 国プロ(政府研究開発プロジェクト)。「サーキュラーエコノミーの構築」では資源循環経済構築に資するテーマをまとめる形でプロジェクトを推進中。

【執筆者】

高田 昌樹氏

 高田昌樹氏=一般財団法人光科学イノベーションセンター理事長(兼任)・東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター教授/総長特別補佐(研究担当)

 名古屋大学、理化学研究所などを経て、2015年東北大学総長特別補佐・教授。コアリションコンセプトを掲げ東北放射光施設計画に参画、17年より同センター理事長を務める。金属内包フラーレンの世界初の構造決定(1995年)など多数の放射光による研究成果をネイチャー、サイエンス誌に発表。博士(理学)。

山田 健一氏

 山田健一氏=東北大学共創戦略センター 企画調整役/特任教授

 東北電力、仙台市役所を経て、2022年4月より現職。仙台市役所では、企業誘致に従事して研究開発型企業の誘致に取り組むとともに、東日本大震災から復興した沿岸被災地への産業集積を遂行。現在は、主にサイエンスパーク事業を担当し、産学官金の「共創」による新たなイノベーションエコシステムの創造を目指す。

電気新聞2024年2月19日