運転技術を磨く東電RPのオフロードバイク隊。車体にはTEPCOのロゴも

 東京電力リニューアブルパワー(RP)松田事業所(神奈川県松田町)のオフロードバイク隊が、台風の襲来に備え運転技術の研さんに励んでいる。オフロードバイク隊は災害時にいち早く水力発電所まで出向き、河川や設備の異常を把握。復旧の優先順位を決める「設備トリアージ」を行うための重要な役目を負う。悪路で転倒せず、異常も見逃さないためには、安定しながらゆっくり走るという高いテクニックが要求される。

 9月初旬の菅沼発電所(静岡県小山町)。発電所手前の空き地では、狭い間隔で置かれたいくつものパイロンを縫うようにスピードを抑えながら走るオフロードバイク隊員の姿があった。

 使用しているのは250ccのオフロードバイクで、曲がる際になるべく車体を傾けずに体を起こすなど、通常のバイクとは異なる操作をしなければならない。災害対応時には土砂崩れや倒木などで道路環境が悪化するため、運転はより難しくなる。隊員はヘルメットだけでなく胴、肘、膝にプロテクターをまとい、けがの防止に万全を期している。

 松田事業所は2018年9月にオフロードバイク隊の編成について検討を始めた。担当エリアに箱根などの観光地を含むため、渋滞に対応することが当初の目的だったという。19年2月に社内決裁が下り、5月に試行を開始したが、その夏に台風19号に直面した。
 
6時間の短縮
 
 松田事業所は15カ所の水力発電所を管理しているが、台風19号の際はエリア内の高速道路と有料道路が全て通行止めとなった。この事態を受け、松田事業所は北側の水力発電所10カ所の状況を確認するため、オフロードバイク隊を投入した。

 台風19号が襲来した翌日早朝に事業所を出発。2時間後には最上流地点に着き、そこから約1時間半で事業所へと戻った。オフロードバイク隊は水路、サイフォン、調整池、取水口、沈砂池、河川護岸などをスマートフォンで撮影、送信した。車では狭い道を走行できないほか、設備などを確認する際は停車する場所も探さなくてはならない。バイクにはそうした課題がないため、車での巡視と比べて6時間ほどの時間短縮につながった。
 
定期的に訓練
 
 オフロードバイクは機能的に多くのメリットがあるが、要員を確保するのはそう簡単ではない。重要なのが運転技術だ。転倒を防ぐことはもとより、現場を確認しながら走るという特殊性もある。オフロードバイク隊の隊長を務める加藤和夫・総括グループ運営チームリーダーは「普段バイクに乗る時とは違うことが要求される。どちらかというと遅く走るための技術が求められる」と操作の難しさを語る。

 松田事業所は元々、バイクの免許を持つ社員が15人いた。免許を一から取得する必要はなかったものの、安全性を確保するため、独自の社内認定制度を創設。2人一組による10時間の訓練などを通じて技能やマナーを細かくチェックし、一定レベルを満たせば1人でも出動できるようにした。現在、単独出動が可能な隊員は3人で、さらに1人が間もなく認定を取得できる段階にある。

 隊員は計8人が在籍し、日々、技術を磨くための努力も重ねている。四半期に1回の定期訓練のほか、社外との合同訓練にも積極的に参加している。自衛隊、消防、NTT東日本、東京メトロなどバイクを災害対応に活用する事例は多い。

 松田事業所の進藤裕一所長は、より安全性の高い小型バイクや3輪バイクの導入などを検討する考えを示す。進藤所長は「いずれは隊員を確保するために免許を取得してもらうケースが出てくるかもしれない。導入しているのは松田事業所だけなので、これからも途切れさせないようにしたい」と語った。

電気新聞2020年9月11日