脱炭素技術が競争を勝ち抜く鍵になる(写真は三菱パワーの本社がある横浜市の三菱重工横浜ビル)

 三菱日立パワーシステムズ(MHPS)から社名変更した三菱パワーが9月1日、始動した。三菱重工業の完全子会社化に伴う社名変更で、これを機に主力の火力発電機器に親会社の持つ二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)などの環境負荷低減技術も組み合わせて、脱炭素時代の新たな選択肢を顧客に提案。他メーカーとの競争を勝ち抜く構えだ。

 MHPSは、三菱重工と日立製作所の火力発電システム事業を統合して2014年2月に設立。世界のガスタービン市場を席巻する米ゼネラル・エレクトリック(GE)や、独シーメンス・エナジーを追撃する体制を整えた。

 三菱重工と日立製作所は昨年12月、南アフリカの火力発電案件の費用負担を巡る係争に和解。この一環で日立がMHPSの持ち分全てを三菱重工に譲渡することが決まった。そして、三菱重工の完全子会社として生まれ変わった三菱パワーだが、先行きは順風ではない。近年のガスタースタービン市場は、世界的に需要が低迷している。
 
 ◇競争激化は必至
 
 MHPS時代の14年度に45台あった受注は、17年度に8台まで落ち込んだ。19年度は32台まで回復しているが、他のガスタービンメーカー幹部は「24年度までは下火が続く」と予測。「新興国などで需要はあるが競争の激化は間違いない」と話す。

 国内もガスタービン需要が落ち込んでいるが、事業環境の変化で商機が生まれつつある。政府は7月、非効率な石炭火力発電所を早期削減する方針を公表。蒸気タービン市場の先細りが見込まれるものの、「既存の石炭火力をガス火力にリプレースする可能性が生まれた」(メーカー関係者)。

 政府は石炭火力の輸出支援条件の厳格化も示した。しかし、三菱パワーの河相健社長は「脱炭素の方針が明確な国には、最新鋭の石炭火力技術を輸出すると聞いている。CCUSなど脱炭素技術を提案する好機だ」と話す。

 三菱パワーは脱炭素技術として水素やアンモニアの混焼技術を手掛ける。水素については既に30%の混焼を実現。2025年までに100%の水素専焼を目指している。
 
 ◇顧客と接点拡大
 
 こうした技術に加え、デジタルサービスの投入で顧客との接点を拡大する。柱となるのはデジタルソリューション「TOMONI(トモニ)」。各機器の運転データを分析して運用を最適化する。発電効率の維持、向上に役立つほか、燃料費の削減にも貢献する。

 デジタル技術で他メーカーと差別化する考えだが、運用改善のソリューションは、GEやシーメンス・エナジーも経営資源を集中している分野。ライバル2社は再生可能エネルギーの出力変動に対応する負荷追従技術を磨いている。

 石炭を中心に火力発電への逆風が強まる中、三菱パワーをはじめとする各メーカーはデジタル技術などのソリューションビジネスで生き残りを懸ける。

電気新聞2020年9月1日