新型コロナウイルス感染症拡大は世界のありさまを様々な意味で変えようとしている。各国政府・企業などが感染症対策に追われる中、感染症の第2波到来や第2次世界大戦以降で最悪と指摘される経済恐慌への備えも必要だ。この中でDX活用に変化が起こることも確実であろう。技術の種類によっては採用時期の前倒し、新たな活用方法の検討、新技術の開発などもあれば、既存の概念実証などが陳腐化して放棄されるなど、多くの見直しが予想される。
 

ニューノーマルにどう適応するか

 
 ポストコロナの話題になる際、再びニューノーマル(新常態)という言葉をよく聞くようになった。2年前の当連載でも言及したが、この言葉は元来金融用語である。コロナ禍の影響から、ライフスタイルの変化や社会システムの今後の在り方に関する議論が各所で高まっているが、安易にこの言葉を使用している印象を受ける。パラダイムシフトを十分考慮しているような議論でも、その前提が少々楽観的でさえあるからだ。100年前のスペイン風邪から世界恐慌、第2次世界大戦までの悲惨な世界史を振り返ると、戦争まで繰り返さないと信じる前提で、少なくとも入り口しか見えていない世界恐慌がどの程度で収束するのかの結末までを想定した上でニューノーマルを考えるべきだろう。

 前置きが長くなったが、以下ではポストコロナとDXとの関連に限定して極めて簡単に考察してみたい。

 東日本大震災後にもリモートワークの重要性が認識されていたが、多くは災害時の一時的な対応と見なされ、セキュリティー対策へのハードルの高さなどから、それが恒常化することはなかった。その後のDXブームや働き方改革などの議論においても、前例踏襲主義の前に本質的なイノベーションを引き起こすには至らなかったが、コロナ禍は日本のリモートワーク比率が欧米と比べて低いことを浮き彫りにした。

 KPMGではニューノーマル適応に向けたDX活用、事業と組織の再構築を総合的に支援している。リモートワーク導入についてはコロナ禍中の事業継続マネジメントからポストコロナでの分散化オペレーションの構築、その安定化に向けた制度・システム改革などが含まれる。特にガバナンスとシステムの両面から各種施策を提案している。
 

転んでもただでは起きない前向きさが必要

 
 今回の在宅勤務でリモートワークが増えたことにより、3密リスクも伴う通勤での時間浪費、必要のない会議、進まないペーパーレスなど、従来からの様々な非効率から解放される可能性があることに多くの人が気付いたはずだ。DXの時代には働き方改革をさらに進化させ、劇的な生産性革命を遂げるチャンスとして、「コロナ禍で転んでもただでは起きない」という前向きな発想が必要になる。

 一方で、リアルな対面でのコミュニケーションが否定されるものではない。それはコストの高い、従って高い価値を生まなければならない活動として認識されるべきである。時間の同期性(相手に合わせることを強制する)と非同期性(個々の優先順位で処理する)を理解すれば、リモートワークとはいえビデオ会議も安易に開催することは非効率につながる。ビジネスチャットのような非同期ツールの活用も検討するべきだ。仮想現実(VR)などのデジタル技術が将来的に進化することを前提にすれば、今のうちに人間行動を見直し、新技術活用で新たなライフスタイルの実現に備えるべきだ。

【用語解説】
◆ニューノーマル(新常態) 
元々はリーマンショック後の「金融の新たな常態」のことを指していた。その後、次第に様々なコンテクストで使われるようになり、危機のプレ・ポスト(前後)で生じた大きな構造変化後の新常態を意味する一種のバズワード(専門的流行語)となっている。

◆事業継続マネジメント(BCM = Business Continuity Management) 
企業などが災害、事故や事件などの発生時に、発生前と同様の事業継続を図るための防止策や、発生後の復旧計画など、危機の対処に関するマネジメント手法のこと。一連の事業継続や復旧計画をまとめたものを事業継続計画(BCP)という。

電気新聞2020年6月8日
 

<<第2回
第4回>>