前回、制度改革を契機としたイノベーションをもとに日本版シュタットベルケなどに言及したが、今回は少し時間を戻して本年4月の電気事業における法的分離のような構造分離(アンバンドリング)後の公益事業の未来を考えてみたい。電気事業をはじめとした公益事業の研究を行う公益事業学会は昨年1月に設立70周年を迎えたが、長い歴史を持つ公益事業もDXが引き起こす社会変革とは無関係ではいられず、イノベーションが求められている。 
 

アンバンドリングによって変化する公益事業

 
 公益事業、特に電気事業においてイノベーションがどのように発生するのかを考察してみよう。


 上の図では左側にアンバンドリング後の公益事業の機能と役割、電気事業の構造を示し、右側に公益事業の一般化した未来を示している。DXにより異業種間融合が進むと考える以上、公益事業間に通底する規範からアプローチすることも、ホリスティック(全体論的)な理解への早道であると考えるからだ。

 ①は規制改革により市場を独占から競争状態にした部分である。これまでの業界を跨(また)いだ単純な市場参入を超え、デジタル技術を背景にエネルギーとモビリティーの複合ビジネスモデルを探る動きは異業種間融合の典型である。また、合従連衡を通した水平統合での再編がこの部分で起こる可能性もある。

 ②は自然独占が残る部分であり、改革前同様に規制下に置かれる。ここでは不可欠施設に持続的イノベーションによる事業効率向上の必要もあるが、デジタル技術は既存ネットワークの陳腐化を通して破壊的イノベーションを引き起こす可能性もある。課題はイノベーションへの自由な投資判断が規制下では難しいことにあり、インセンティブ規制などの制度的措置が必要となる。

 ③では①の市場変化を受けた消費選択拡大が価格やサービスだけではなく、サブスクリプション、シェアリングなど、所有から利用への消費形態の変化が引き起こされる。これらはコンピューター処理能力の向上と人工知能(AI)などにより、ハード・ソフト両面の進化がもたらす新しい市場環境によりさらなる高度化、多様化が期待されている。

 ④では、GAFA/BATなどの巨大IT、配車サービス、民間宿泊施設マッチングなどのプラットフォーム型ビジネスの出現が産業組織の在り方を大きく変えている。また、従来の資本集約型の設備所有や中央集権型のオペレーションも、アセットの分散化に伴いソフトウエアでオペレーションの最適化を図るビジネスモデルが志向されている。エネルギー産業における分散型エネルギー資源(DER)はこの典型であり、これらをベースとしたプラットフォーマーの出現も今後は考えられる。
 

GAFAにとって生活データは魅力。プラットフォーム間競争が起きる可能性も

 
 こうしたことから、さまざまなプラットフォーマーの覇権争いが激化するプラットフォーム間競争は、従来からの公益事業と社会の重要インフラとして欠かせなくなったITプラットフォーマーなどの非公益事業との間にも発生する可能性がある。


 図にGAFA/BATの事業領域を示したが、それぞれの事業起点は検索サービスや電子商取引などサイバー空間のビジネスである。しかし、決済、実店舗での小売りや自動運転など、アマゾンエフェクトという言葉に代表されるリアル侵食が進んでいる。彼らにとってはエネルギービジネスから得られる生活データは魅力的であり、既に一部プラットフォーマーが電気事業者へのアプローチを試みる動きもある。競争か共創か、④の領域で今後繰り広げられる展開には注視が必要である。

【用語解説】
◆プラットフォーム 
もともとは鉄道の駅で旅客乗降や貨物荷役を扱う平らな場所を指す言葉であったが、近年はビジネスの場や、サービスを提供する企業戦略などに転じて幅広い意味で用いられている。一般的にはデジタル技術を駆使したIT企業が提供するサービスの場を指すことが多い。

◆GAFA/BAT 
米国のGoogle、Amazon、Facebook、Appleおよび中国のBaidu(百度)、Alibaba(阿里巴巴集団)、Tencent(騰訊)の略。これら巨大ITプラットフォーマーの事業起源は異なるものの、近年それぞれの企業グループが提供するサービスメニューは似通っている。

電気新聞2020年6月1日
 

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