デジタルトランスフォーメーション、その略語のDX(ディー・エックス)という言葉が聞かれるようになってから久しい。生産性向上、業務改善、組織改革、働き方改革、新規事業開発、ベンチャー投資など、様々な企業活動におけるデジタル技術活用への取り組みやこれをテーマとすることは、企業により程度の差こそあれ、DX推進の前提となりつつある。今回から4回にわたり、テーマごとのDX取り組みの現状や課題などから、「DXのいま」を考える。
 

新ビジネス創出への制度が盛り込まれた改正電事法

 
 DXは、様々なデジタル技術を活用した結果としての社会的な変革(イノベーション)の総体を表す言葉であるため、DXを成し得た後の姿を正確に描いたうえで、DXを目的化することは実は難しい。しかしイノベーション促進的な意図を持つ規制改革が引き金となる場合、あたらずといえども遠からずの未来を描くことは可能である。

 本年4月の送配電部門の法的分離後初となる改正電気事業法が、6月成立した。改正電事法は再エネ特措法やJOGMEC法の改正と束ねてエネルギー供給強靱化法と呼ばれるが、その名の通り、強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図ることが最終的な目的である。その内容を見ると、デジタル技術の活用なくして実現させることが難しいものがいくつかある。


 具体的には、電力データの有効活用、配電事業者とアグリゲーターの新設、配電網の独立運用、電気計量制度の合理化などの制度措置により、新たに構想が可能となった電力ビジネスのことである。

 電力データ活用には災害復旧時の自治体への情報提供だけではなく、電力版情報銀行設立が想定されており、データアナリティクスによる新たなビジネス創出が期待されている。

 配電事業者の新設ではレジリエンス(強靱性)の強化や設備維持と保守コストの低減も想定されているが、配電事業への新規参入においては人工知能(AI)やIoTなどのデジタル技術の活用が期待されている。

 また、家庭用機器等を使った一部の取引では、一般家庭などの消費者がプロシューマーとして市場参入が可能となり、アグリゲーターなどと直接電力取引が可能となる。一般家庭間でのP2Pと呼ばれるマイクロ取引も視野に入る。
 

日本版シュタットベルケへの道も

 

 最近再びスマートシティー、コンパクトシティーが話題に出ることが多くなったが、前述の取り組みは、人口減少とインフラ維持という日本の重大な社会課題の解決にも応用できる可能性が見えてくる。例えば送電事業者(TSO)と配電事業者(DSO)を分離し、DSOが自治体などと共同企業体を作るなどで連携し、他のインフラとバンドリングする。

 さらに、DSO内の小売りとのファイアーウォール(規制・非規制領域間の隔壁)を適切に置けば、コミュニティーユーティリティー(地域公益事業)が成立するのではないか。インフラのプラットフォーム上にデジタル化技術の活用を検討することは言うまでもない。また、地域の住人がそこに住み続けたいという意思を持ち、主体的に運営されることが前提だ。

 日本でも地域電力設立のコンセプトとして、ドイツのシュタットベルケがビジネスモデルや設立理念として標ぼうされることがあったが、地域のネットワークインフラを持たないこうした組織は、本家のシュタットベルケのありさまとはほど遠かった。しかし、今後は真の意味での日本版シュタットベルケを設立する道が開けたと考えることもできる。

【用語解説】
◆プロシューマー 
生産者(Producer)と消費者(Consumer)とを組み合わせた造語で生産消費者のこと。未来学者アルビン・トフラーが著書『第三の波』の中で予見した新しい消費者のスタイル。インターネットなどで商品開発プロセスの一部に関与する消費者も含まれる。

◆シュタットベルケ 
ドイツやオランダなどの、主に自治体が経営する都市公社(Stadwerke=City Works)のこと。電力、ガス、地域熱供給などのエネルギービジネスをコアに、上下水道、公共交通、廃棄物処理、公共施設の管理運営、通信といった地域の公共サービス提供を包括的に担っている。

電気新聞2020年5月25日
※掲載時の記述から一部変更しています

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