一般送配電事業者が保有する電力使用者の個人情報を、電気事業以外の目的で利用・提供するためには、電気事業法改正を含む法制度の見直しが必要となる。グリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合(以下、GDBL)では、会員との実証活動を通じて把握したユーザー側のニーズを踏まえ、国への提言・働き掛けを行ってきたが、今般、法制度の見直しに向けた検討が進み、個人情報活用への道が開きつつある。GDBLでは、個人情報を活用したユースケース開発を会員と一体となって進めるとともに、様々な異業種データの掛け合わせによる新たな価値創造に挑戦していく。

 

ビジネスでは中立組織に同意確認の役割。改正電事法に盛り込む

 

 2019年11月8日、経済産業省所管の第1回持続可能な電力システム構築小委員会では、個人の電力データ活用について、災害対応および、社会課題解決等の双方の視点から検討されている。

 災害対応の観点からは、災害時かつ自治体などへの提供に限り、個人情報を含む電力データを、個人の同意を得ることなく、一般送配電事業者が提供できるようにするための制度整備をすべき、との議論がなされた。一方、ビジネス利用を含む社会課題解決などへの活用については、本人の同意を前提に、一般送配電事業者が第三者に提供できるようにするための制度整備について検討がなされた。そして、19年11月20日、第2回の同委員会において、このビジネス利用を含む社会課題解決などでの利用に関する具体的なスキームについて中立的な組織が本人同意やデータ提供を担うイメージが提示されている=図。

 今年6月5日には、上記の内容を含む電気事業法改正案が可決、成立した。今後、22年4月の施行に向けて電力データの個人情報活用に関する具体的な仕組みづくりが進展するものと期待される。
 

「自分のデータを活用したくなる」アイデアを創出する

 
 GDBLでは19年7月、2日間にわたって「自分の電力データを活用したくなるサービスや仕掛け」をテーマにアイデアソンを開催した。会員10団体からの参加者17人、GDBLメンバー4人に、自由な発想を引き出すための起爆剤として学生5人が加わり、4チームに分かれ、個人ワーク・グループワークを通じて新たなアイデアの創出活動を行った。ゲーム性に富んだ「やわらか系」から、暮らし・仕事に役立つ使い方まで、多彩なアイデアが生み出され、「自分自身のライフスタイルを把握できる、これまでなかったリアルデータ」としての可能性を確認することができた。

アイデアソンの様子

 GDBLでは、東京都水道局と共に、水道・ガス・電力のスマートメーターから得られるデータの活用に関する共同検討を開始している。我が国においては、電力のスマートメーター設置が先行して進んでいるが、水道、ガスについてもそれぞれの業界・事業者において、導入に向けた検討やパイロットプロジェクトが進行している。ライフライン3業界のデータは、いずれも個人のライフスタイルを反映したリアルデータであると同時に、地域の活動状況を把握する貴重な情報である。今後、お互いのデータを持ち寄り、補完し合うことで、新サービスの創出や災害時対応などの社会貢献につながる連携策などについて検討を進めていく。

 18年11月のGDBL設立以来、法制度の見直しなど電力データ活用に向けた環境整備は大きな進展を遂げている。これと同時にGDBLの会員数も日増しに増加し、現在では120団体を超えており、電力データへの期待の大きさを感じる。会員と一体となった実証活動を通じ、有益なユースケースも生まれてきている。

 引き続きGDBLでは、社会貢献、社会課題の解決や産業の発展を目指し、電力データ活用の検討に取り組んでいく。

電気新聞2020年5月18日
※掲載時の記述から一部変更しています