グリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合(以下、GDBL)では、120団体を超える会員と共に、電力データと異業種データの掛け合わせ分析を行い、様々なユースケース創出に向けた検証活動を行っている。ほぼ全ての家庭、事業所に設置されたスマートメーターから得られるデータは、地域の特性や活動を把握するためのベース情報として、様々な活用用途があることが分かってきた。
 

3ヵ月を目安にプロセス展開。実業務への適用目指す

 
 ユースケース実証のプロセスは、企画フェーズから実証フェーズまで3カ月を一つの目安に、図1のようなステップで進めている。

 このプロセスの実施に当たっては、GDBLにおいて必要なリソースを提供している。具体的には、課題や目標を定義し、目標達成に向けた仮説やシナリオを作成するとともに、全体行程を管理するコンサルタント、活用するデータの特性に応じた分析方法を検討し、掛け合わせ分析を行うデータアナリスト、最終的に分析結果を活用するユーザー向けに、プロトタイプのシステムを作成するシステムエンジニアがチームを組んで実証活動にあたる。

 一方、会員は要求仕様(業務課題定義、各種判断、効果の定義など)の提示ができる体制をアサインする。単にデータ分析の研究活動にとどまるのではなく、最終的には実業務への適用を可能とすることを目指し、効果測定のための机上検証・フィールド実証を通じた、ユーザーインターフェース(UI)・ユーザーエクスペリエンス(UX)の開発までをゴールとしている。

 事例1.避難状況に応じた避難誘導

 スマートメーターから得られる30分ごとの電力使用量の変化から、ある時間帯の在宅状況を推定し、任意のエリアで集計した在宅・不在宅世帯統計を作成できる。災害発生時、住民に対して避難指示などが出された場合には、この在宅・不在宅世帯統計を、よりリアルタイムに近いスピード感で把握することで、住民の避難の進捗状況を推定できると考えられる。

 GDBLでは、東京都足立区の協力を得て、足立区が設置する避難所データやハザードマップ、危険地域、想定避難者データに加え、建物の倒壊度や高齢者や要介護者などの住民属性、低位置層に位置しているエリアなどを掛け合わせ、地図上に表示することで、避難誘導への活用可能性について検証を行った=図2。ダミーデータを用いた検証により、危険な地域や高齢者が多いエリアに避難が必要な住民が多く残っていることが分かれば、効率的な避難誘導が可能となることを確認している。さらに、周辺の避難進捗状況を区民向けアプリなどで発信することで、避難行動の迅速化につながることが住民アンケートによって確認できた。

 事例2.エリアマーケティング

 一般的に、商業施設の出店や店舗運営を検討するためのエリアマーケティング分析を行う場合は、店舗周辺の世帯数や、生活動向を把握する必要がある。従来これらの把握には、公開されている国勢調査や人力による現地調査が活用されている。

 スマートメーターデータでは、メーターの設置数から世帯数が、30分ごとの電力使用量の変化から在宅・不在や外出・帰宅時間の傾向、おおよその世帯構成などが推定できる。また、ある一定期間のデータを時系列に分析することで、世帯数の増減などを把握することも可能となり、5年に一度の国勢調査や、人力による現地調査よりも、短期間でエリアの変化を捕捉することができるため、エリアマーケティングへの活用が期待されている。さらにGDBLでは、このスマートメーターデータに、会員が保有する様々なデータやオープンデータを掛け合わせることで、エリアマーケティングの進化・高度化が可能になると考えている。
 
 

空家判定や見守りなども検討

 
 GDBLでは、紹介した2つの事例以外にも、一定期間電力使用がない場合の「空家・空室判定」や、普段の電力使用とは異なる使用状況が発生した場合にアラートを発する「ゆるやかな見守り」など、様々なユースケースについて検討を行っている。

電気新聞2020年4月27日