東電が整備した尾瀬の木道

 東京電力ホールディングス(HD)は、尾瀬の保護活動をESG(環境、社会、企業統治)の観点から訴求する検討を進めている。これまで半世紀以上にわたり、木道の整備などを通じた植生回復に貢献。今後も東電リニューアブルパワー(RP)が主体となり、保護活動を続けていく。地域と一体で尾瀬の環境を守るとともに、尾瀬を年間約260億円の価値を生む自然資本と位置付け、企業価値向上にもつなげていきたい考えだ。

 尾瀬国立公園は群馬県片品村、福島県檜枝岐村、新潟県魚沼市にまたがり、東電HDは全体の4割に当たる約1万6千ヘクタールを所有している。東電HDは各自治体と尾瀬保護財団を設立し、尾瀬サミットを毎年開催。環境省も加えた尾瀬国立公園協議会などの場で、諸問題の解決に向けて意見を交わしている。

 尾瀬の保護活動は、4月1日に業務を開始した東電RPが引き継ぐことになった。保護活動などを含めた尾瀬の取り組みに関する広報は、東電HDのESG推進室が担う。

 東電HDはこれまで自治体や国と分担し、公共的な施設の整備・管理を担ってきた。約65キロメートルの木道・登山道のうち東電HDは約20キロメートルを整備。このほかトイレは22カ所のうち7カ所、橋は10カ所のうち3カ所を整備した。

 2019年に成果が報告された学術調査によると、竜宮十字路という場所の付近では、1970年に21%だった裸地割合が19年には0.2%まで減少。東電HDなどが木道を整備したことで人が踏み入れるケースが少なくなったとみられ、調査団からは植生回復に貢献していると評価された。

 近年はシカがミズバショウの花を食べてしまう「シカ害」が問題になっている。東電HDはクラウドファンディングを利用してミズバショウの植栽を実施。環境省による尾瀬・日光国立公園ニホンジカ対策広域協議会にも参加し、シカを防ぐための柵を設置・撤去する際のボランティアなどで協力している。

 尾瀬は観光地としての人気回復も課題だ。尾瀬の訪問者数は96年の65万人をピークに減少を続け、現在は25万人程度となっている。東電HDグループの東京パワーテクノロジーは尾瀬で山小屋5件を経営。観光客を呼び込もうと、ガイドツアーなど尾瀬体験プログラムを提供している。関東学院大学と協力し、学生からインバウンド(訪日外国人観光客)対応の在り方に関する提言も受けた。

 東電HDのESG推進室は地域イベントなどで尾瀬の取り組みを紹介するとともに、2002年からこれまでに現地解説を1046件、出前授業を391件実施した。

 尾瀬は東電HDにとって貴重な自然資本でもある。東電HD所有地における森林の炭素固定量は年間約1万トンで、湿原の炭素固定量は同約千トン。地下水涵養(かんよう)量は同約1億2千万立方メートルあり、土壌流出を144分の1程度に抑えている。

 これらの評価を基に東電HDは尾瀬の経済価値を試算。その結果、炭素固定量として年間1億~1億5千万円、土壌流出防止機能として同159億円、観光地として同98億円相当の価値になった。社会的価値としても、「豊かな自然と人々との共生」につながると評価している。

電気新聞2020年5月18日

※記事の一部を修正しました(2020/11/06)