国内自動車メーカー2社が、電動車を介して自治体との接点を拡大している。災害時にメーカー保有の電動車を避難所に無償貸与する協定を自治体と締結しており、日産自動車と三菱自動車工業の締結先は2月末までに50を超えた。協定締結を機に電動車を購入する自治体もあり、普及の弾みにもなっている。自治体保有の電動車が増加すれば被災者支援に役立つだけでなく、将来的には分散型電源やVPP(仮想発電所)での利用も考えられる。自動車メーカーも自治体と連携を深化すれば、将来の電力取引で存在感が高まってきそうだ。
三菱自動車は、全国の自治体と災害時協力協定の締結を目指す「DENDOコミュニティサポートプログラム」を展開し、2月末までに33の自治体と協定を締結した。協定締結により、災害時の復旧プランを事前に協議。発災後は電動車を停電した避難所に迅速に派遣し、照明や携帯端末などの電源として活用する。
締結先は今後も拡大する見通しで、現段階で「100程度の自治体からオファーがある」(金子律子・三菱自動車DENDOコミュニティサポートプログラム事務局長)という。
現状で締結先が保有する同社のプラグインハイブリッド車(PHEV)「アウトランダーPHEV」の台数は合計でも20台に満たないが、締結先の拡大とともに採用が伸びている。さらに、メーカーと自治体が電動車利用で新たな協定を結べば、大規模な電源としての活用も見込める。
メーカー関係者は、「自治体との協定は災害対応を目的としたもの」と前置きした上で、「車載電池をつないで電力取引に参加するには電池をまとめる技術が必要。さらに車両も千台規模になるだろう」と見ている。ただ「VPPの実証試験も進んでいるので、(電力取引ができる)絵は描ける。災害時だけでなくマイクログリッドに利用できる点を自治体に発信していくべきかもしれない」と話す。
政府が2022年4月の施行を目指す、配電事業のライセンス制にも電動車がキーアイテムになる。特定区域で一般送配電事業者の配電網を利用する制度だが、太陽光発電所や電動車を多く所有する自治体がライセンスを取得し、自動車メーカーとともにレジリエンス(強靱性)確保の観点からマイクログリッド構築に乗り出す可能性もある。
三菱自動車商品戦略本部EVソリューション担当マネージャーの川井拓氏は、「系統運用の技術がないが、新電力などと連携すれば実現できるかもしれない」と期待する。
課題となるのは電動車の台数。先の関係者は「V2H(自動車から宅内への給電)の機能すら知らない自治体の担当者もいる。普及にはまだまだ時間と情報発信が必要」と語る。
電力取引に大量の電動車を活用する世界はまだ先の話かもしれない。その一方で本格的な普及期に入れば、自動車メーカーにとって自治体と広げてきた接点が新たなビジネス創出の場になりそうだ。
電気新聞2020年3月4日
>>電子版を1カ月無料でお試し!! 試読キャンペーンはこちらから