経済産業省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(委員長=山本一良・名古屋学芸大学副学長)は18日に会合を開き、東京電力ホールディングス(HD)福島第一原子力発電所の廃炉処理水について、全量を海や大気に放出しても、被ばく線量が小さく、健康上問題がないとする評価結果をまとめた。処分を開始する時期ごとのシナリオも示し、最も遅い2035年では処理水が200万トンまで増えるとの試算も示した。

 小委では、処理水に含まれるトリチウムの全量が860兆ベクレルあると推定。国連科学委員会(UNSCEAR)のモデルを使い、1年間で全量処分した場合の被ばく線量が海洋放出で年間0.052~0.62マイクロシーベルト、大気放出で同1.3マイクロシーベルトになると評価した。自然被ばく線量である同2100マイクロシーベルトと比べると、処理水放出の影響は「十分に小さい」とした。

 処理水の処分方法はこれまでに地層注入、海洋放出、大気への水蒸気放出、水素放出、地下埋設が検討されてきた。だが、UNSCEARモデルは海洋放出と水蒸気放出にしか使えず、他の方法は被ばく評価をできないことから、会合では「海洋と大気への放出に議論を集中するべきだ」(崎田裕子委員)との意見が上がった。

 一方、処分時期のシナリオでは、2020年、25年、30年、35年の各1月1日から処分を開始したと仮定。そこから廃炉完了時期として設定している45年か50年までに処分を終える場合に、処理水とトリチウムがどう推移するかを示した。

 東電HDは多核種除去設備(ALPS)処理水のタンク容量上限を134万トンとしているが、開始時期が25年だと150万トン、30年だと175万トン、35年だと200万トンの容量が必要と試算。年間のトリチウム処分量は廃炉が最短の45年に終わるとすると、20年開始で39兆ベクレル、25年開始で51兆ベクレル、30年開始で68兆ベクレル、35年開始で106兆ベクレルになるとした。

 トリチウムを含む放射性廃棄物は、通常も海への管理放出が認められている。福島第一事故前の国内原子力発電所での5年平均放出量は年間380兆ベクレル。福島第一の放出管理目標値は22兆ベクレルだった。

電気新聞2019年11月19日

 
<参考>
経済産業省 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第15回)配布資料