福島第一廃炉で1日から試験的に導入されている柔構造アーム
福島第一廃炉で1日から試験的に導入されている柔構造アーム

 東京電力ホールディングス(HD)は、10月1日から福島第一原子力発電所の廃炉作業に「柔構造アーム(筋肉ロボット)」を導入している。柔構造アームは電子部品を使わずに水圧シリンダーとバネで駆動するため、放射線への耐性が高い。滑らかできめ細かい動きも特長だ。今回は試験的な運用の位置付けだが、実作業を通じて得られたデータを分析して知見を拡充し、原子炉格納容器の内部調査や燃料デブリ取り出しに向けた機器開発などにも役立てたい考えだ。

 この柔構造アームは日立GEニュークリア・エナジー、中外テクノス(広島市、福馬聡之社長)が共同開発した。サイズは縦23センチメートル×横82センチメートル×高さ180センチメートル、重量は120キログラム。大アーム1本、小アーム2本を備え、それぞれ関節が8カ所ある。先端部分は物をつかめる構造で、把持力は大アームが25キログラム、小アームが15キログラム。作業内容に応じたツールを持つことも可能だ。

 福島第一の廃炉作業では、モーターやセンサーなどの電子部品が高線量下で正常に機能しなくなるケースが何回もあった。柔構造アームはそうした課題をクリアする手法の一つとして期待される。衝撃に強く故障しにくいほか、作動流体は水なので万が一漏れ出しても周辺への影響は小さい。

 今回の作業で柔構造アームは、3号機タービン建屋の滞留水をくみ上げるポンプを地下1階サンプピットに設置する前工程の、干渉物撤去に使用されている。地上1~2階を結ぶ階段の踊り場から真下に位置する地下1階サンプピットへのルートを確保した上で、柔構造アームを吊り下げる。同時にカメラと照明も吊り下げ、その映像を見ながら遠隔操作する。

 具体的な作業内容は、ケーブル切断、配管撤去、ボルト切断、既設ポンプの玉掛け。地上1階~地下1階の空間線量は1時間当たり最大130ミリシーベルトが計測されており、人が近づいて作業することは考えにくい。柔構造アームを使う作業は年内に終了する見通しだ。

 建屋滞留水の処理は汚染水対策の中でも重要性が高く、中長期ロードマップで2020年内の処理完了が目標工程(マイルストーン)となっている。一方、他の建屋については既存遠隔技術の方がより安全、正確、短期間で施工できることから、柔構造アームを採用しない方針。

電気新聞2019年10月7日