筒身頂部を切断して吊り下ろした(9月1日、東電HD提供)
筒身頂部を切断して吊り下ろした(9月1日、東電HD提供)

 東京電力ホールディングス(HD)は、福島第一原子力発電所1、2号機共用排気筒上部解体工事で筒身本体を切断、撤去する初回の作業を今月1日に終えた。解体装置はエイブル(福島県大熊町、佐藤順英社長)が開発し操作も担う。福島第一、福島第二原子力発電所全10基の廃炉を円滑に進めるには、地元の力を積極的に活用することが求められ、産業集積や雇用拡大、復興推進の面からも期待が大きい。今回の工事はそのモデルケースになり得るもので関係者の注目を集めている。
 
 ◇自発的に参画
 
 排気筒は高さ120メートル、内径3.2メートルの筒身を鋼管鉄塔で支える構造だ。解体装置をクレーンで吊り上げて排気筒最上部に取り付け、部材を2メートル程度の大きさに切断して把持したまま吊り下ろす作業を繰り返す。装置は筒身用と鉄塔用がある。

 解体時の被ばく量を低減するため、装置は遠隔で操作。クレーンは有人だが、鉛板などで遮蔽する。放射性物質の飛散対策では、筒身内部に飛散防止剤を散布した上で切断部をカバーで覆い、ダストを吸引。作業に伴う放射線量の変化がないか常時監視する。エイブルは排気筒の模擬施設を製作して装置開発を進め、作業訓練を重ねた。

 東電HDが工事の委託先に大手企業ではなくエイブルを選んだのは、中長期の視点に立ち、地元企業と協力して廃炉を進める重要性を認識しているからだ。東電HD自身が深く関与して技術を“手の内化”する狙いもある。それだけに工事の成否は大きな意味を持つ。

 エイブルの佐藤社長は「廃炉をチャンスと捉えて、地元が元気になるためにできることを一生懸命やっていく」と決意を語る。原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名元理事長は、自前で装置を開発するエイブルはエンジニアリングの機動性が高いと指摘した上で、「自発的に廃炉に参画する地元企業が増えれば復興に役立ち、廃炉も加速する。一つの先駆的事例として高く評価している」と期待を寄せる。
 
 ◇作業トラブルも
 
 だが、これまでの道のりは険しいものとなっている。昨年11月時点では今年3月に作業を始める計画だったが、装置の改良に加え、クレーンの吊り上げ高さ不足が判明し、その対応で8月にずれ込んだ。クレーンの問題については、図面と現場の確認が不足していた東電HDの品質管理が厳しく問われた。

 8月1日に作業を開始してからも、東電HDの小野明常務執行役・福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントが「世界初の難しい作業。現場でやってみないと分からないことはある」と強調するように、トラブルが相次いだ。通信系の不具合、切断装置の動作不良、想定より早い刃の摩耗、クレーン下部からの油漏えいなどが生じたほか、猛暑の影響で熱中症患者も出た。

 筒身解体撤去の初回作業を終えたのは、予定から約4週間遅れの9月1日だった。翌2日の特定原子力施設監視・評価検討会で、原子力規制委員会の伴信彦委員は「満身創痍(そうい)ではないか。先を急ぐあまり、見切り発車しないようにお願いしたい」と要請。大熊町商工会の蜂須賀禮子会長は「地元からすると、取り掛かった作業は早く終わらせてほしい。作業員の安全も大切だ」と発言した。

 福島第一の廃炉・汚染水対策は、これからも幾度となく「世界初」に直面するはずだ。これまでに得られた知見と教訓を生かしつつ、想像力を最大限に発揮して安全、着実に排気筒解体工事を仕上げられるのか。東電HDの力量があらためて問われている。

電気新聞2019年9月4日