電気使用量も有用な個人データの一つとして注目される(写真はスマートメーターの設置作業)
電気使用量も有用な個人データの一つとして注目される(写真はスマートメーターの設置作業)

 「家にいる日時を察して荷物を届けてくれる宅配便」「規則正しい生活を送っている人は割安になる保険プラン」「居住者も気づかぬうちに家電を制御、節電してくれるスマートホーム」――。こんなサービスの実現は、そう遠くないかもしれない。鍵となるのが“電力データ”の利活用だ。
 
 ◇生活映し出す電気
 
 情報通信や人工知能(AI)、ビッグデータ解析といった技術の進歩は、埋もれていた個人データを商機に変える。電力データの一種である電気使用量も例外ではない。使い方次第で、今までにない価値を生むポテンシャルを秘めている。

 国内では電力小売り全面自由化を契機にスマートメーター(次世代電力量計)の普及が加速し、2024年度には全戸に設置される見通し。各需要家の電力使用量データを30分単位で収集できるインフラが整ってきた。家電など機器ごとの使用量を分析するディスアグリゲーション技術を組み合わせ、さらに精緻なデータとすることも可能だ。

 日々の生活に欠かせない電気の使い方は生活パターンそのもの。使用量だけでなく、時間や場所と結び付いたデータでもある。これを他の個人データと掛け合わせれば、個人に最適化された“究極のオーダーメードサービス”も夢ではない。

 国内でも、電力データを活用したユースケースを開拓する試みが始まっている。その一例が電力3社とNTTデータが出資する有限責任事業組合(LLP)「グリッドデータバンク・ラボ」の活動だ。小売店舗のエリアマーケティングや地域防災といった切り口から、新たな価値を具体化しつつある。単に企業収益の拡大だけでなく、社会課題の解決につながる点も、注目度が高まる背景となっている。
 
 ◇漏えいリスク課題
 
 一方、個人データの流通には情報漏えいや本人の意に沿わない利用といったリスクもつきまとう。自分のプライバシーが名も知らぬ第三者に知られ、思わぬ厄介ごとに巻き込まれるのではないか。こんな懸念がサービスの拡大にブレーキをかける事態も想定される。

 自らが保有するデータを安全に蓄積・管理し、サービス事業者など第三者への提供の可否を判断することが重要になる。ただ、電力データのみならず金融や健康、医療など多岐にわたる個人データを本人だけで管理・活用するのは現実的ではない。

 そこで役割が期待されるのが情報銀行だ。お金ではなく個人データを預かり、その所有者の指示に基づいて妥当性を判断した上で第三者へと提供する。個人データの流通を促進し、その便益を所有者へ還元する仲介役を担う。総務省が18年度に実施した実証実験には、中部電力や日立製作所なども参画している。

 ただ、個人データの流通を拡大させるためには課題も多い。例えば、データ保有者の同意を取得する方法。データ活用による便益が広く認知されなければリスクのみが意識され、個人から積極的な同意を引き出すのは難しい。いかに便益とリスクの両面を提示し、データ保有者の権利を守れる合理的な利用ルールを整備するか。こうした議論には数多くの葛藤も存在する。
 

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 膨大な価値を生み出す「第二の石油」とも呼ばれ、活用の機運が高まる個人情報。電力分野ではスマートメーターで収集される電気使用量データなどが注目されている。様々な課題も想定される中、新ビジネスの創出や社会課題の解決にどうつながっていくのか。国内外の事例を基に今後を展望する。

電気新聞2019年8月30日

※「電力データX 新たな商機」は現在、連載中です。続きは電気新聞本紙または電気新聞デジタル(電子版)でお読み下さい。