学生や教員が運び手と受け手になって学内実証を行った
学生や教員が運び手と受け手になって学内実証を行った

 スマートメーター(次世代電力量計)などから得られる電力データを社会の課題解決に生かす試みが本格的に動き出す。東京大学発のベンチャーである日本データサイエンス研究所(東京都文京区、加藤エルテス聡志CEO)は、電力データと人工知能(AI)解析を組み合わせ「再配達問題」の改善を目指す。地方自治体などと連携して、今年度にも本格実証を始める計画だ。この他にも家庭向けサービスの高度化に向けて、同研究所と東大の研究室、中部電力とインターネットイニシアティブ(IIJ)の合弁会社ネコリコの3者で技術提携を行う。

 全国で普及が進むスマートメーター。2024年までには対象となる約8千万世帯への導入が完了するとの見通しもある。そこから取得できる30分単位の電力使用量は、多彩なサービスを生み出す基盤として期待されている。実際、使用量の“見える化”やその延長線上としてのDR(デマンドレスポンス)、見守りなどが既にサービスとして実装されている。一方で、その他の応用領域でどうデータを活用するかについては、なお試行錯誤が続く。

 ◇AIで在不在予測

 こうした状況に、東大発ベンチャーが一石を投じるかもしれない。データ分析の専門家ら約20人が所属する日本データサイエンス研究所は、インターネット通販の普及に伴い社会問題化する「再配達問題」への切り札として、スマートメーターの電力データを活用しようとしている。

 具体的には、家庭ごとに異なる電力データをAIによる機械学習で解析し、今ではなく将来の在不在を予測する。その予測結果に基づき、配達ドライバーにあらかじめ不在先を除いた経路を示すことで配送成功率を高める試みだ。

 情報学を専門とする東大の越塚登教授の研究室などと連携し、東大本郷キャンパスを仮想の宅配エリアに見立てた学内実証を18年9月、10月に行った。

 その結果、AIの在不在予測に基づきルートを提示した場合の配送成功率は98%となり、人が最短経路を判断した場合の77%を大きく上回った。再配送の削減などにより総移動距離も5%減った。越塚教授は、学内実証の成果について「手間がかかる再配達を減らしたいというニーズは確実にあるが、そのために大きな投資をするのは現実的ではない。身近にあるスマートメーターの電力データをうまく使うことが、そうした社会の要請に応える現実解になる」との見解を示す。

 日本データサイエンス研究所は今後、神奈川県横須賀市などの地方自治体や宅配事業者と組み、実際の宅配エリアでの実証を19年度中にも始める計画だ。大杉慎平・チーフ・データサイエンス・オフィサーは「(学内実証で)分析の精度を確認できたことは非常によかったが、サービスとして提供するためには実際の業務に組み込む形での検証が必要になる」と語る。

 ◇家庭向けにも活用

 同研究所のデータ解析技術をスマートホーム向けサービスに生かそうという動きも出てきた。中部電力とIIJの合同会社ネコリコと同研究所、越塚教授の研究室の3者は、スマートホームソリューションの高度化に向けた電力データ活用に関する技術提携を近く発表する。

 ネコリコは、スマートメーターや環境センサーなどから取得したデータを生活に密着したメッセージに「翻訳」して、スマートフォンアプリなどに通知するIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「necolico HOME+(ネコリコ・ホーム・プラス)」を展開している。

 同研究所はスマートメーターやセンサー類のデータを解析するAIを提供することで、IoTプラットフォームを通じたサービスの高度化を目指す。

電気新聞2019年4月24日