電力中央研究所は12日、温室効果ガスを2050年までに80%削減する政府目標の達成に必要なエネルギー需給の分析結果を示した。13年度比で二酸化炭素(CO2)を80%減らす場合の電源構成は、環境省など各機関の試算に沿って最大限の再生可能エネルギーを導入しても、2900万キロワットの原子力発電が必要になると指摘。60年運転と86%強の高い設備利用率を前提に置いても、既設炉だけでは足りず、新増設が不可欠と強調した。新増設には長い期間がかかることから、政府には喫緊の判断が求められると指摘した。

 50年までに80%減らす目標は、政府が16年に閣議決定した地球温暖化対策計画に盛り込まれており、6月までに策定する長期低排出発展戦略(長期戦略)への有識者懇談会提言でも踏襲されている。分析結果は、電中研社会経済研究所の浜潟純大主任研究員らがまとめた。

 80%削減の基準年は、30年度に26%減らす政府の中期目標の基準年である13年度を踏襲した。30年以降の経済成長率を年率0.5%と見込んだ上で、従来の約2倍、省エネルギーを深掘りして80%削減を達成した状況を想定。80%削減時のエネルギー起源CO2排出量は約2億4700万トンとなり、内訳は運輸など非電力部門の排出が約1億8200万トン、発電所など電力部門の排出が約6500万トンとした。電力需要は約1兆1100億キロワット時と想定した。

 次に電力部門の排出を約6500万トンに抑えるための電源構成を検討した。環境省や国際エネルギー機関(IEA)の試算などを基に最大限導入した場合の再生可能エネの発電電力量比率は66%(約8千億キロワット時)になるが、さらに18%分(約2200億キロワット時)を原子力で補い、非化石電源比率を84%(約1兆200億キロワット時)まで高める必要がある。残り16%(約1900億キロワット時)は周波数調整用のLNG(液化天然ガス)火力が供給する。

 また、太陽光や風力の出力制御をゼロにする場合、蓄電池が2億1千万キロワット強必要になると分析した。

 原子力で約2200億キロワット時の発電量を得るには、13カ月連続運転時の設備利用率86.7%を前提に置いても約2900万キロワットの設備容量がいる。60年運転を行う前提で、50年時点で残っている20基が全て稼働しても2178万キロワットにとどまるため、約700万キロワットの新増設が必要になると強調した。

 一方、現時点で新規制基準適合性審査を申請中か合格した既設炉だけが50年に稼働している(15基・1684万キロワット)と想定した場合、80%減の達成には、CO2回収・利用(CCU)技術の活用か、30年以降の「ゼロ経済成長」が条件になるとした。

 CCUでは素材系産業のCO2排出量の約3分の1に当たる3千万トンの大規模利用が必要で、コストや産業界の負担が課題になり得ると指摘。新技術の普遍性などを検討しておくことが求められるとした。

 長期戦略の有識者懇談会は、50年以降の目標を深掘りして「実質ゼロ排出」を目指すことも提言したが、エネルギー需給の姿を描く難しさは増しそうだ。

電気新聞2019年4月15日