

家電は昭和の電化のスーパースターばかりであるだけでなく、都市と電化研究会のメンバーにとっても思い出の品々であり、その選定はとても難しく、かつ懐かしいものだった。本紙の記事では、三種の神器(洗濯機、冷蔵庫、掃除機、その後白黒テレビへ)や3C(カラーテレビ、ルームエアコン《cooler》、車《car》)等、昭和の家庭を支えた中心的製品が並んだが、ここでは戦後の大量普及期に限らず、昭和初期~平成直前までの印象深いものをあげてみた。
●ライフスタイルの変化 生活をより豊かに


昭和初期、書物の普及に伴って人々の視力の低下が大きな社会問題となっている。『明視スタンド(電気スタンド)』はそうした背景で生まれた戦前を代表する家電である。中心的なメーカーであった東京電気、照明普及会はこの時期「明燈明視運動」を展開し、夜の読書の友としてシェード型のスタンド照明が数多く普及することになった。あわせて昭和初期を代表する家電としてラジオがある。当初は全国各地にラジオメーカーがあり、特に交流電源で音声を聞くことができる、つまり大きな蓄電池を持たずにスピーカーで聞くことができる『エリミネータ・ラジオ』(蓄電池がなくなる、という意味である)が大ヒット商品となった。
さらには勤め人の増加や洋装の一般化とともに普及した『アイロン』、電球とアイロンを併用できる松下幸之助開発の『二股ソケット』も、この時期を象徴する電化製品である。
●食生活の変化と電化 キッチン家電
戦後の家電の中で本紙の10選からもれたものに、『トースター』『電気ポット』『ジューサー/ミキサー』『餅つき機・ホームベーカリー(パン焼き機)』といったキッチンまわりの製品群がある。
トースターは昭和初期には輸入品が存在した。しかし敗戦後、米国の支援物資である小麦粉を国民の栄養不足解消に充てるため、全国の小学校等でパンづくり教室が開かれ、国民の多くがパンに親しむようになると国産製品が量産された。いわゆるポップアップタイプのものであり、のちにピザを焼く、食材を温め直すといった他の用途にも使える今日のオーブントースターが一般化するようになった。
電気ポットもキッチンの常連家電だった時代がある。そもそも家庭に欠かせない商品として『魔法瓶』があり、昭和40年前後の花柄ブームの際には花柄魔法瓶が各家庭に存在した。押すだけでお湯が出るエアーポットを昭和55年(1980年)に発売したのは他ならぬ魔法瓶メーカーの象印であり、以降、魔法瓶メーカー、家電メーカーが商品を投入することとなった。
『ジューサー/ミキサー』『パン製造機、餅つき機』も、ある意味「流行りもの」であり、ジューサー/ミキサーは昭和30年前後にミキサー、昭和40年代にはジューサーの大ブームがあり、それぞれ世帯普及率が50%にまでなった。
『餅つき機』は発売された昭和40年代から徐々に売れ始め、昭和51年には東芝の「もちっこ」だけで年間100万台を販売している。一方、『ホームベーカリー』は昭和60年代に登場してブームとなり、普及が加速したのは平成初期になってからであった。同じく平成への橋渡し、という点でキッチンまわりというより大型住設機器である『食器洗い乾燥機』も、初めてシステムキッチン組み込み型が誕生したのが昭和末期(昭和63年、パナソニックNP-5500B)であり、平成期の本格普及につながっていくことになる。
●音楽を聴く・健康を管理する 役割の多様化

本紙記事ではテレビ以外、音響関連の製品が取り上げられなかった。ここでは音響の革命児『ウォークマン』の登場と、昭和世代にとって懐かしいラジオカセットレコーダー(ラジカセ)の中から『ドデカホーン(CFD-D77)』を取り上げたい。いずれもソニーの製品だ。音楽を街に持ち出す、というウォークマンのコンセプトは、今日に至るまで人間と音楽の関係性に偉大な影響を与えたことは言うまでもないが、逆に持ち出さず、中高生が自室で聞く、持ち運び可能で大型のラジカセがブームとなったのも興味深い。各社はこの時、重低音の音質(スーパーウーハー等)を相争って製品に反映するようになった。2020年代、その音質競争はむしろワイヤレスイヤホンに移った感があるが、CM合戦も含め、記憶に残る昭和の風景である。
最後に、今日に至る健康家電の代表として昭和60年にオムロンが発売した『家庭用血圧計(HEM-400C)』をとりあげたい。家庭で血圧を毎日測定、という光景はそう古いものではない。家庭用血圧計のトップ企業であるオムロンが初めて、「家庭用デジタル血圧計HEM-88」を発売したのは昭和56年のことであり、まだまだ普及していないとともに血圧コントロールの重要性も今日ほど認識されていなかった。その点で、HEM-400Cは一般家庭に血圧計が普及する契機になった製品であり、現在は世界に1億台普及しているといわれる家庭用血圧計の先駆となった昭和家電の代表選手のひとつといえよう。
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