
ダイヘンは、2025年4月、大阪・関西万博にて電気自動車(EV)を“走りながら”充電する「走行中ワイヤレス給電」の運用を開始する。充電作業そのものを不要としEVの利便性を大幅に向上するとともに再生可能エネルギーの最大活用にも貢献する、長年の研究開発により生み出した最先端の技術だ。本技術の社会実装に向け、24年には「EVワイヤレス給電協議会(通称=WEV)」を幹事会社の1社として設立。産学官での連携も強化し、取り組みをさらに加速させていく。
当社は、脱炭素社会実現の鍵となる電気自動車(EV)の普及促進に貢献するため、EV充電システム総合メーカーとして、業界を牽引する先端技術を搭載した機器・システムを開発、市場投入している。その中でも特に国内メーカーに先行して開発に取り組んできたのが、プラグをつなぐことなく非接触でEVを充電するワイヤレス給電技術だ。EVを“停めるだけ”で充電可能な「停車中ワイヤレス充電システム」は既に環境省などと連携し、バスやトラック等の商用EVをユースケースとして全国で実装を推進している。
そして25年4月には、大阪・関西万博にてEVを“走りながら”充電する「走行中ワイヤレス給電」の運用を開始する。万博を皮切りに社会実装に向けた取り組みをさらに加速させる。
開発のスタートは今から約13年前の11年。EVよりも出力の小さい、工場内搬送に用いられる自動搬送台車(AGV)向けの開発から開始した。販売を開始した16年には3キロワット程度の出力しか出せなかったが、継続的な研究開発により、17年には11キロワット、23年には一般的なプラグイン急速充電器と同じ15キロワットまで出力を増強させることができた。元々は電車の線路のような平行に敷設した2本の導線を用いる「平行2線方式」を採用していたが、より大電力化に有利な「コイル方式」へと開発の方向性を変更したことがその大きな理由だ。コイル方式とは、道路に埋設(設置)した送電コイルからEV車体の底面に設置した受電コイルに非接触で電気を送る仕組みである。
◇有線式と同等効率
当社の走行中ワイヤレス給電は、ほかにも高い性能を持っている。まずは電送効率だ。一般的なプラグイン充電器と同等の95%を実現し、電気を無駄にせずに充電することができる。そして、給電における高速制御技術。コイル上にEVが走っていることを瞬時に感知し、EVがどれだけ速いスピードで走っていても給電することができる。EVがコイル上を走っていない間は給電しないため、電気を無駄にすることもない。これらは当社の長年にわたる研究開発の成果である。
走行中ワイヤレス給電には、充電作業がなくなることによる利便性向上のほかにも様々なメリットがある。まずは、車体軽量化によるEVの電費向上および道路やタイヤへの負担軽減だ。走りながら常に充電し続けるため、車体に電気を貯める必要がなくなり、搭載するバッテリー容量を大幅に削減できる。
◇系統安定化に寄与
また、再エネの最大活用にも貢献する。現状トラック等の商用EVは昼間に各地を走り、夜間に一斉充電をすることが多い。しかし走行中ワイヤレス給電では、太陽光発電などの再エネが発電される日中に充電できるため、蓄電池などを介さずに再エネをダイレクトに活用することが可能だ。将来的にはEVバッテリーを1つの分散電源と捉え走行中ワイヤレス給電を電力系統とつなげることで、広い範囲でのエネマネに活用することも視野に入れる。例えば猛暑日など人々の電力需要が上昇し電力不足が発生した際、EVが走行中給電のコイルを通じて電力系統に電気を送ることで系統の安定化へつなげることもできる。
当社は、既に走行中ワイヤレス給電技術の開発を完了している。社会実装に向け今後重要となるのは、産学官の連携による実運用に向けた制度面の整備だ。24年月、ダイヘンは幹事会社の1社として日本で初めてのワイヤレス給電の業界団体WEVを設立した。WEVには現在110を超える企業・省庁等が正会員やオブザーバーとして加盟しており、ワイヤレス給電の制度化・標準化・事業化・社会実装・普及活動などを推進している。
電気新聞2025年2月17日