◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

2、CERN、ITERの訪問

 23年9月、私は世界最大の素粒子物理実験施設であるCERN(スイス・ジュネーブ)と、次世代エネルギーの国際プロジェクトであるITER(フランス・カダラッシュ)を訪問した。

 CERNでは、物質を構成する最も小さな単位を探る素粒子物理学の研究が行われている。この分野は、宇宙の始まりや物質の基本構造を解明する重要な科学である。CERNはこれまで、ノーベル賞につながる発見を生むだけでなく、がん治療技術やインターネット(WWW.=ワールド・ワイド・ウェブ)の基礎を築くなど、私たちの生活にも大きな影響を与えてきた。

 特に注目すべきは「CERNベンチャーコネクト」という組織である。この組織は、CERNで開発された技術を活用して、新たな産業を支えるベンチャー企業を積極的に支援している。例えば、エヌビディアなどの半導体企業とのマッチング支援は、最先端研究の社会実装としての好事例である。

 一方のITERは、核融合エネルギーという未来のエネルギー源を目指す壮大なグローバルプロジェクトである。核融合エネルギーは、太陽のエネルギーの仕組みを地上で再現するもので、環境に優しく持続可能なエネルギーとして注目されている。日本企業もITERの装置開発に深く関わっており、その技術力の高さが現地でも高く評価されていることを確認することができた。核融合エネルギー関連のベンチャー企業は日米欧で次々と誕生しており、ジェフ・ベゾス氏ら、著名な起業家や投資家たちからも大きな期待が寄せられている。

 欧州のプロジェクトを訪問して感じたのは、科学技術が国を越えて知識や技術を共有し、新たな産業を生む可能性を持つことである。プロジェクトをホストする国には多くの情報や人材が集まり、「イノベーションの拠点形成」につながっている点も印象的であった。

 こうした取り組みは、世界各地から優秀な人材を引き付け、国際頭脳循環の拠点を形成し、科学や産業の発展に大きく貢献している。わが国もこれらの取り組みに学ぶことが必要だと感じた。

 3、シリコンバレーの衝撃

 24年11月、私は世界最高のイノベーション拠点であるシリコンバレーをはじめカリフォルニア州を訪問した。まず衝撃を受けたのは、たくさんの完全無人の自動運転タクシー「Waymo」がサンフランシスコ市内の公道を走っていることである。私も乗車したが、途中で歩行者が飛び出してきた際もスムーズに止まり、雨が降ればワイパーが自動で動くなど、安心かつ快適であった。また、ロサンゼルスの街中では配達ロボットも動いていた。米国はリスクを取り、日本の一歩先を走っていると感じた。

 日系企業のNTTリサーチや富士通リサーチも訪問した。シリコンバレーのイノベーションエコシステムを活用するために高度人材の確保・育成と人脈形成に取り組んでいた。また、ローレンス・バークレイ国立研究所とSLAC国立加速器研究所にも訪れ、村山斉先生をはじめとした日本人研究者が米国で大きな貢献をしている様子を拝見して、大変頼もしいと感じた。

 このほか、同年9月には台湾を訪問し、ITRI(台湾工業技術院)や陽明交通大学などを視察した。台湾は現在、世界最高峰の半導体産業を誇っている。台湾政府が半導体分野に特化し、企業や大学などの研究機関を全面的に支援している実情に触れ、政府の果たす役割の重要性を痛感した。