画像提供:IHI扶桑エンジニアリング


 電気自動車(EV)の普及が加速する中、充電の利便性向上や走行中のエネルギー管理など、新たな課題が浮上している。その解決策として注目されるのがEVワイヤレス給電だ。特に、停車中車両に対するEVワイヤレス給電(SWPT)は、国際規格の整備が進み、社会実装への期待が高まっている。シナネンはEVワイヤレス給電協議会を通じ、SWPTの市場創出に積極的に取り組み、EVワイヤレス給電が普及した社会の実現を加速させようとしている。

 2027年に創業100周年を迎えるシナネンHDグループの中核会社であり、エネルギーソリューションを提供するシナネンは、持続可能な社会の実現に向け、EVワイヤレス給電の社会インフラ化を目指し、同協議会で幹事を務め、SWPTの普及に向けた活動をけん引している。

 SWPTは、非接触によるユーザーの利便性向上・メンテナンスコストの削減などの利点に加え、走行中のEVワイヤレス給電(DWPT)を実現するための基盤となる技術と期待されている。また、SWPTは、双方向給電が可能で、アグリゲーターを介した電力需給調整リソース、蓄電池機能を活用した災害時対策など、新たな価値やサービスを含めたセクターカップリングやエコシステムの構築につながることも期待される。

 ◇幅広い業種が参加

 しかし、現時点で普及していない要因として、エンドユーザーの認知度が低くニーズが十分に醸成されていないことが挙げられる。シナネンは、この課題を解決するため、協議会においてワーキンググループ(WG)を発足させ、SWPTが効果的に導入できるユースケースの洗い出しを進めている。

 WGには、自治体、自動車メーカー、電力会社、建設会社や充電機器関連企業など、幅広い業界から37会員が参加しており、活発な議論が行われている。

 ユースケースの洗い出しを個社の取り組みとしてではなく、ユーザーおよび機器サプライヤー・サービス提供事業者などの多角的視点からのアイデアを議論・検討することで、より利便性と実現性を両立したユースケースや導入シナリオを公開し、社会ニーズを高めていきたいと考えている。

 議論されている具体的なユースケースの一部として、運送事業者の構内や集荷場、機械式駐車場、無人カーシェアリングスポットなどが参加会員から提案されている。これらの場所でSWPTを導入することで、充電の手間を省き、利用者の利便性を向上させることができる。

 例えば機械式駐車場では、構造上ケーブルタイプの充電器は本体やケーブルが駐車場装置や壁面に干渉する恐れがあることや、駐車場パレット内で人が車両の前後に移動することができず操作できないこと、暴風時にケーブルが駐車場外に飛ばされてしまうなどの懸念がある。それらのトラブルが起こり得ないSWPTは集合住宅におけるEV導入の解決策になると考えられている。

 昨年10月に米テスラが発表した「ロボタクシー」に充電口がなくワイヤレス給電機能が搭載されていたように、自動運転の無人化にSWPTは欠かせない技術となる。運転手不足の解決策として、路線バスの自動運転化の実証が多く行われているが、帰着時に人の手を介さず充電可能なSWPTが同時に導入されることが理想的だ。

 ◇政府機関とも連携

 協議会では、検討されたユースケースや導入シナリオを基に、社会実装に向けたロードマップを作成し、政府機関との連携を強化していく。また、実証実験を通じてSWPTの課題を解決するなど普及に向けた活動に取り組んでいく。

 SWPTの普及を皮切りにEVのさらなる普及を促し、持続可能な社会の実現に貢献することが期待できる。

 SWPTの普及がその先にあるDWPTの実現にうまくつながっていくような業界のかじ取りも必要だ。社会のニーズを醸成し、EVワイヤレス給電の社会インフラ化へのチャレンジを加速していく。

◆用語解説
◆SWPT Static Wireless Power Transferの略。駐車場などでイグニッションオフの停車中車両に対するワイヤレス電力転送。停車中給電。

◆DWPT Dynamic Wireless Power Transferの略。走行中の車両に対するワイヤレス電力転送。走行中給電。EVの航続距離の課題解決や、バッテリー依存の低減、自動運転技術との組み合わせが注目されている。

電気新聞2025年1月27日