連系線や送電線増強、リニア新幹線などで鉄塔需要が増している(写真はイメージ)
連系線や送電線増強、リニア新幹線などで鉄塔需要が増している(写真はイメージ)

 地域間連系線やリニア中央新幹線向けの供給線など大型送電線建設計画が開始することによる工事量の増加を目前に控え、関係業界で人材不足や収益確保に対する懸念の声が高まっている。特に、電力業界の投資抑制に応じて、生産規模を縮小してきた鉄塔・ボルトメーカーにとっては受注が増える半面、特殊技術や設備を維持し、コストダウン要請に応えながら生産増に対応しなければならない。鉄塔製造の現場がどんな課題を抱えているか探った。

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 日本鉄塔協会が毎年12月に開く電力会社の送電部門マネージャークラスとの懇談会。電力各社と鉄塔業界の双方が抱える課題や意見を出し合う場だ。課題の一つに挙がるのが、鉄塔メーカー社員が電力の要望に応じて出張し、補強・改造対象の部材などを調べる「現場スケッチ」だ。

 古い鉄塔を改修したいが、設計図面が残っていない。その場合はメーカー社員が鉄塔に昇って現場状況をスケッチし、図面を書き起こす必要がある。手間がかかる割にリターンの少ない仕事だ。

 そもそも現場スケッチは、大量の鉄塔生産が発注されていた頃にサービスで行っていた業務。ピーク時の約14%、約4万トンまで発注量が落ち込んだ現状では非効率さが目立つ。「もうからない中で社員を出して高い鉄塔に昇ってもらう。昇塔してくれる人材が集まらない」「時間単位当たりの生産重量に対して割に合わない」など、メーカー関係者からため息が漏れる。

 高経年化設備の更新により増加が予想される、既設送電線の停止工事。限られた停止期間に合わせるために発注が集中すれば、生産量に瞬間的な波が立つ。「もし停止工事が集中した場合、生産に合わせて編成するチームの人材が足りない」との意見もある。
 
◇特殊技能ゆえに
 
 平成初期には年間30万トンの発注量を誇った国内の送電鉄塔。十数年前、基幹送電線の建設が一段落し、電力市場の部分自由化が始まった頃を境に、電力設備への投資は一気に冷え込んだ。鉄塔製造を専業とした中小企業が多く、複数企業が会社再生法など苦境に立たされ、人員削減を含め事業縮小を迫られた。

 現在のメーカー生産設備の稼働率は、主力の山型鉄塔が約50%。鋼管鉄塔は約30%と生産量が低く、設備維持に苦心する。今後の発注量に耐えうる生産能力はあるものの、製造・加工を支える人材が不足している。

 鉄塔は、狭い地形で周囲の建物・樹木との離隔を確保し、強度を保ちながら送電線を支える。鉄塔重量や基礎工事にかかるコストも勘案しなくてはならない。強度と経済性のバランスを加味し、大きく脚部を広げた基礎から鉄塔塔中腹部にかけて傾斜しながら鋼材を組み上げる。こうした形状の部材を造るため、曲げ加工にも特殊な技能が必要だ。

 特殊な曲げ加工は「火造り」と呼ばれ、業界では「まるで刀鍛冶」といわれるほど機械化が難しい。烏帽子(えぼし)や矩形(くけい)など、特殊形状の鉄塔部材を加工できる技能者はかなり少ないという。メーカーは、そんな曲げ加工や溶接などの特殊技能を持つ人員の高齢化が進む中で、次世代層の採用も絞ってきた。

 しかし、ここにきて鉄塔需要は急伸し始めている。東北~東京間連系線や東北・日本海地域の送電線増強、リニア新幹線、東京~中部間連系線と、2020年頃から大型工事が相次いで動き出す。再生可能エネルギーや新規火力電源のアクセス線といった外部要請による工事も依然続く。それと並行して、電力各エリアで高度成長期に建てた鉄塔も経年化による更新期を迎える。今後も年間5万トン程度の需要が見込まれている。

 急激に発注量が増えても、単価抑制や価格競争が続く中では設備更新や人材に投資する余力が生まれない。若年層の人口減少も進み、人材確保の難しさは、時間を追うごとに増す。メーカーでは「苦境に変わりはない」との見方が強い。
 
◇課題解消が先決
 
 鉄塔業界は電力各社に対し、人材や製造能力に配慮した確度の高い早期の発注計画と発注量の平準化を呼び掛けている。事情を理解する電力の現場もこれに応じているが、コスト抑制や人材確保などの諸課題を解消できないままでは、メーカー各社の経営が早晩成り立たなくなるとの懸念が広がっている。

電気新聞2019年2月19日
 
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