◆再エネ出力変動に対応
【ケアンズ=旭泰世】Jパワー(電源開発)が7月に完全子会社化したオーストラリアのジェネックス・パワーは、金鉱山跡地を活用した揚水発電所の開発を進めている。露天掘りで掘削された2つの大穴を上池・下池に再利用。電気が余る時間帯に下池から上池に水をポンプアップし、需給逼迫時に水を落としてタービンを回す。金鉱山跡地を揚水発電に再利用する事業は世界初。建設工事は2021年4月に始まっており、26年前半までの運転開始を予定する。
オーストラリア北東部クイーンズランド州ケアンズからチャーター機で南西方向に約1時間移動すると、かつて金採掘で栄えた街、キッドストンに巨大な池が2つ現れる。豪州で約40年ぶりの揚水発電事業「K2―Hydro」の建設予定地だ。
K2―Hydroは、金鉱山の露天掘りで掘削した大穴を上池・下池として利用するのが特徴。2つの大穴に貯まった水を流したり、汲み上げたりして、電力の需給調整を担う。水源は主に雨期(12月~翌年4月頃)に降る雨で、水量が不足した場合は近くの川から水を補充する計画。総出力は25万キロワットとなっている。
実際に建設現場を訪れると、まず200メートル近く掘削された下部の大穴に圧倒される。壁面には渦状に岩盤を削った跡がはっきりと残っており、かつて盛んに行われた金採掘の名残りを感じさせる。上部の大穴と下部の大穴はこれから水路でつながり、水を上げ下げできるようになる見通し。最大で187万キロワット時以上もの電力を貯められるという。
併せて地下発電所の建設も進んでいる。全長約1.7キロメートルのメインアクセスルートを下ると、地下に大きなスペースが広がる。今後、このスペースに出力12万5千キロワットの水車発電機が2台設置される見込み。26日時点ではドラフトチューブが据え付けられていたほか、ケーシングの組み立てなどが行われていた。
K2―Hydroは、豪州で4つ目の揚水発電事業だが、民間企業が揚水発電所を開発するのは初めて。豪州連邦政府は30年までに電力の再生可能エネルギー比率を82%に向上する目標を掲げており、太陽光や風力の出力変動を吸収できる揚水発電所の開発に期待がかかる。
また、一般的な揚水発電所は停止状態から発電開始まで5分程度必要だが、K2―Hydroの場合は最短90秒で応動可能。豪大手電力のエナジー・オーストラリア向けに高度なアンシラリー(周波数調整)サービスを提供する予定だ。
ジェネックス・パワーのクレイグ・フランシスCEOは、K2―Hydroを始めた背景について、「金鉱山が01年に閉鎖されてからリハビリテーション(原状回復)が課題となっていたことから、揚水発電所のため池として再利用することを思いついた」と説明した。豪州全体で設備費や人件費の高騰しているなど対処すべき課題はあるものの、工事は着実に進行中。「工期までに確実に工事を終わらせたい」と意気込みを示す。
電気新聞2024年11月28日