◆許認可を簡素化/第一号に「賞」
米国で小型モジュール炉(SMR)など先進炉開発を加速するための「アドバンス法」が7月に成立した。米原子力規制委員会(NRC)に対して許認可手続きの簡素化や申請料引き下げ、審査要員の充実を求めるほか、最初に開発に着手する事業者に賞を与えるなど先進炉開発へのインセンティブを設ける。許認可の審査については予測可能性を示し、事業者の投資回収の予見性を高める。ロシア、中国が海外への原子力輸出で存在感を強める中、米国も積極的な原子力開発で先導的役割を担う狙いがある。
アドバンス法は「クリーンエネルギーのための多用途で先進的な原子力導入促進法」の略称。米議会両院において与野党で9割超の支持を得て可決し、バイデン大統領の署名を通じて成立した。原子力分野における米国のリーダーシップを推進することが目的だ。
原子力技術の海外輸出は、NRCに国際的な利害関係者との協力を拡大する権限を与えるほか、輸出に関する許認可についてNRCに議会への通知を義務付ける。米エネルギー省(DOE)には核不拡散を維持しつつ原子力輸出の承認プロセスの改善を指示する。政策と規制の双方へ安全確保を前提に先進炉輸出を推進する役割を与えている。
◇活発な投資環境
東京大学大学院の岡本孝司教授は「同法は原子力技術の輸出を意識したもの」と指摘する。米国内ではGAFAMなどテック企業が先進炉投資を活発化させており、同法を通じていち早く海外へと展開したい思惑がにじむ。NRCによる国際協調には「NRCの規制システムそのものを輸出したい」(岡本教授)との狙いもあるようだ。
先進炉開発のインセンティブも設ける。NRCが収入源とする許認可手続きの手数料を引き下げ、先進炉開発を目指す事業者の規制コストを削減。許認可を受けた最初の先進炉に賞を与えることも条文に加えた。
このほか、NRCには既設原子力発電所内での原子炉建設や、廃止した石炭火力発電所跡地で原子力発電所を建設するための許認可プロセスを確立することも求める。高濃度低濃縮ウラン(HALEU)供給に向けた許認可能力の強化、核分裂と区別した核融合の規制の整備も指示した。
◇予測可能性与え
同法では「効率的かつタイムリーで予測可能な規制レビューを支援する許認可体制を確立するよう指示する」との条文も盛り込んだ。「何年、何カ月で審査できるかの予測可能性を与えれば事業者が投資回収の時間を見通せる。規制が投資を阻んではいけない」と岡本教授は指摘する。
先進炉の許認可については、トランプ政権で19年に成立した原子力革新・近代化法(NEIMA)の下、27年末までに規制枠組みの確立を指示。非軽水炉やSMRなど新型炉が対象の新規則として、リスク情報を活用した柔軟性の高いパフォーマン・スベースドの規制を行う見通しだ。
米国内はテック企業の原子力投資が活発化する一方、先進炉開発や海外輸出に関しては中ロが先行する。米政府は政策と規制の両輪で自国の先進炉開発を促し、国際市場で中ロの後れを取らず先導的役割を担う構えだ。
電気新聞2024年10月28日
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