◇最適な検出手法を探索・採用/実用化に道、産地実証へ

 中国電力での「カキNavi」の開発では、AI(人工知能)物体検出技術として、検出性能や学習時間等の課題解決のため、EfficientDetの技術を採用し、これにより実用化の見通しが得られたことから、主要な養殖海域において、生産者とともに実証に取り組んでいる。今回は、「カキNavi」で用いたAI物体検出技術の概要と、養殖産地での実証状況について紹介する。


EfficientDetを用いた検出結果の画像。付着期カキ幼生(眼点あり・なし)、付着期の前段階の大型カキ幼生、付着期フジツボ幼生の4区分での検出が可能になり、学習時間も大幅に短縮された

 広島県実証事業のひろしまサンドボックス「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」にてカキ幼生検出技術の開発に取り組み始めた2018年頃の代表的なAI物体検出技術として、Faster R―CNN、YOLO、SSDが挙げられる。一般的に、物体検出の性能と速度はトレードオフの関係にあり、検出性能はFaster R―CNN、SSD、YOLOの順に優れており、検出速度はYOLO、SSD、Faster R―CNNの順に速い。本開発においては、当初、性能と速度のバランスが取れているSSDを採用した。

 初期のカキ幼生検出では、海水サンプルに含まれる夾雑物をカキ幼生と誤検出することがあったことから、検出性能を向上させるため、カキ幼生の画像を数百枚ほど撮影する都度、それらを教師データとして学習を繰り返し行った。開発初期は1回の学習で、10日前後だった学習時間は、教師データの増加とともに長くなった。このような中、生産者からの要望により、採苗の妨げとなるフジツボ幼生も検出する必要が生じ、検出対象が増えることで、学習時間がさらに長くなることが予想された。

 これらの状況も考慮し、フジツボ幼生をカキ幼生と同時に検出できるモデルへと改良するタイミングで、検出手法をSSDから、当時、新しく公開されたEfficientDetに変更した。EfficientDetは、同程度の性能の既存検出手法と比べて必要な計算量が少なくて済むことが特徴となる。検出速度はYOLOには劣るものの、SSDよりは速く、検出性能はSSDと同程度であり、学習時間も大幅に短縮されたことから、「カキNavi」の利便性が向上し、サービス提供の目途が立った。


シーフードショー大阪出展時の様子

 ◇展示会で高い関心

 開発と並行して、全国に向けたPR活動として、24年2月に開催された第21回シーフードショー大阪へ共同開発者のセシルリサーチと出展した。開催期間中には全国のカキ生産者や自治体関係者など100名以上の方に関心を寄せて頂き、その後の広島県外での実証にもつながった。

 ひろしまサンドボックス事業の後、21年度からこれまで継続して、広島県農林水産局水産課の協力のもと、採苗時期にあたる6月から9月にかけて、広島湾内にて「カキNavi」の実証を行っている。


実証試験にて生産者が利用している様子

 ◇本格提供を目指す

 また、今年度の新たな試みとして、それまで学習していない海域(岡山県、宮城県など)での実証も行った。結果としては、概ね高性能に検出できたが、地域ごとの課題も一部確認された。

 ご協力頂いた生産者等のユーザーの多くからは本アプリに関して、カキ採苗に適した時期と場所をタイムリーに判断できる支援ツールとして期待が寄せられており、今後は本格的なサービス提供に向けた操作の簡略化や、更なる検出性能の向上を進めていく。
(この項おわり)

[用語解説]
◆AI物体検出技術 

 動画や静止画内の物体の位置と種類を特定する技術。事前に大量の画像(教師データ)から物体の特徴を学習し、画像に含まれる対象物体を検出する。Faster R―CNN(Faster Region with CNN feautures)、YOLO(You Only Look Once)、SSD(Single Shot Multibox Detector)、EfficientDetなど、様々な技術が公開されており、それぞれに、検出性能、検出速度やパラメータ数(学習により更新する変数の数。学習時間に影響する)などの違いがあり、用途に応じて使い分ける必要がある。

電気新聞2024年10月28日