◇パリ協定脱退は確実

 5日に投開票された米大統領選で、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の当選が確実になった。トランプ氏の返り咲きによって、200カ国近い国連気候変動枠組み条約締約国で温室効果ガス(GHG)排出削減を進める「パリ協定」からの再脱退は、確実視されている。複数の政府関係者は今後の動向を注視するとしつつも、トランプ政権が発足するからといって、「脱炭素に向かう世界の潮流は変わらないのでは」とみる。

 トランプ氏は大統領1期目の2017年、パリ協定脱退を表明したが、連邦政府の方針とは別に、米国内では州政府や企業、大学などが同協定を基に気候変動対策を進める「We Are Still In」宣言に署名した。トランプ政権が再びスタートしても、カリフォルニアなど地球温暖化対策を推進する各州やグローバル企業などの取り組みは「止まらないだろう」と環境省幹部は言う。

 「二酸化炭素(CO2)を大量に排出する企業に、投資が集まらない世界に既に転換している。脱炭素に向かうビジネス全体の流れは変わらない」(同幹部)との見方だ。経済産業省・資源エネルギー庁幹部も「大統領が誰になろうと、米国の大企業と金融はカーボンニュートラルに向かう」と、同じ見解を示す。

 別の政府関係者は、米国がパリ協定から再脱退しても4年後に復帰する可能性があることから「パリ協定が空中分解するとみるのは早計」と話す。

 一方、石破茂政権下で原子力政策の停滞も見込まれる中、トランプ氏の勝利によって「例えばカーボンニュートラル目標の前倒しなど、非現実的な米国のスタンドプレーに付き合う必要はなさそうだ」とプラスの影響を見て取る。

 経済省幹部が警戒するのは、米インフレ抑制法(IRA)の行方だ。経産省はバイデン政権下で、例えば米国で作った水素を日本で受け入れるなど、GX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略とIRAの連携について協議を進めてきた。トランプ氏がIRAを見直せば「案件によっては影響が生じるかもしれない」と懸念の声が上がる。

電気新聞2024年11月8日