◇先手を打った被災者支援へ/計画策定・管理の一助に

 地域が災害に見舞われたとき、被災した住民への対応に最前線であたっているのは市区町村である。しかし、大規模災害はあまり頻繁には起こらないので、市区町村職員の多くは、初めて応急対策業務に従事することとなる。慣れない業務対応となるので、対策が後手にまわってしまうことが懸念される。そこで、防災科学技術研究所では、市区町村が先手を打った応急対策を計画的に行えるよう『災害応急対応マネジメント支援システム』の研究開発を行っている。

 災害時に、市区町村が行う応急対応業務は避難所運営支援や災害廃棄物の処理、被災者生活再建支援など多岐にわたり、その期間も数カ月に及ぶこともある。

 長期にわたる対応期間の中では、それぞれの応急対応業務について、各担当部署で、被害の規模に応じて、どのような対策をいつまでにどれだけ行うのかといった目標を定め、目標達成するための計画を策定し、人員や施設、資機材といった資源を確保・配分した上で実行することとなる。そして計画に基づく実施状況の進捗を確認していくという、いわばプロジェクト・マネジメントが求められることになる。

 ◇イベントと同様に

 例えば、建物やライフラインの被害が大きく自宅で暮らせない住民が多くなると、避難所となった学校などはとても混雑する。そうした場合には、体の弱い方などを優先して何人程度は、旅館などに3日後までを目標に移動してもらおう、といった応急対応を行うことがある。

 こうした対応を実施するにあたっては、必要となる旅館などの部屋数や、移動手段となるバスの台数を調達、また、移動してもらう住民を選定するなど、いくつかの対応事項ごとにそれぞれ担当者を配置し、工程などの計画を立てて、実施していくこととなる。システム開発やイベント開催などのプロジェクト・マネジメントと同様の対応が求められる。

 ◇従事経験なくても

 自然災害は、全国的に見れば毎年のように発生しているので、多くの被災地での経験から、こうした被害状況・規模になったら、このような応急対応が必要となるといった、定番的なプロジェクトが見られる。しかしその一方で、個々の自治体は大規模災害の対応を行うことはまれなため、経験のない自治体が、事態を先読みしてプロジェクトを企画し、先手を打った応急対応を行うことは容易ではない。

 そこで、こうした課題改善に向けて、当所では「災害応急対応マネジメント支援システム」の研究開発を始めている。このシステムは、現場業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)よりも、本庁でのマネジメント業務の改善を目指したものとなる。

 ◇観測データを活用

 システムの開発構想としては、例えば避難所の混雑解消や在宅避難者の状況把握など、過去の被災地で何度も行われた応急対応の実施計画のひな型を用意し、事前に訓練などでも使えるようにしておこうと考えている。その上で、災害時に具体的な計画を策定するためには、建物や人口などの被害規模や空間分布などのデータが必要となる。こうしたデータとして、本連載でこれまで報告されたドローンや衛星、IoTなどでの観測データや、デジタルツイン上でのリアルタイム推定などが重要となる。

 さらに、現状のデータからその後の状況推移予測や、「こうした現状や予測なら次のような対応計画の策定が必要になる」といったサジェッションの提示なども、システムで支援できたらと考えている。

 このように平常業務と異なり、従事経験のない災害応急対応業務を、先手を打って計画的に実施できるよう、「災害応急対応マネジメント支援システム」の研究開発に力を入れていく考えだ。

(この項おわり)

電気新聞2024年9月30日