◇標準化、専用風車開発で進展/技術開発重ね、経済性向上を

 浮体式洋上風力発電を商用化するには、さらなる経済性向上が必要である。その前提になるのが、(1)大きな導入目標(2)量産化(3)サプライチェーン(4)技術革新――の4項目である。連載の最後に当たって、今後の課題と、最近の動向を解説する。

 これまでの実証・準商用案件では設置先の条件(波浪や風況)に応じて、その都度に浮体を設計・製造していた。これでは同設計での生産数は十数基未満で、十分な量産効果は得られない。

 大形風車では、保険会社のジャーマニッシャー・ロイドが平均風速を基準にI~IIIの「Wind Class」を定めた規格を制定し(その後の国際標準IEC61400―1)、風車の大量生産につながった。浮体に対しても、風況と海象条件(波高と周期)を数種類に分類して、設置先が異なっても同一設計の浮体を適用する構想が提案されており(IDEOLやIEA Wind)、近い将来に国際標準化される見込みである。浮体を1年に100基以上も造ればスケールメリットで建造コストを大幅に削減できる。

風に押され傾いて発電するテトラスパー3600㌔㍗浮体式風車

 ◇供給網整備が必須

 商用化して毎年、数百基・数百万キロワットを設置するには、表に示すようなサプライチェーンを整備する必要がある。浮体製造では1万5千キロワット級風車用のセミサブ構造を建造可能な巨大造船ドックは限られており、ブロック工法などの対処が必要になる。係留システムでは、係留索の本数を減らしてコストを低減するには、現在の量産上限(太さ13センチメートル)を超える大型チェーンの量産工場を整備する必要がある。

 これまで紹介した浮体式洋上風車は、陸上や着床式と同じ仕様であり、浮体式専用の風車ではない。着床式では風車は常に垂直に立っており、風による傾きは1度位である。浮体式では風に押されて風車が5~10度くらい傾いて運転する=写真。傾きの許容度が大きいほど、浮体を小形化して経済性を向上できる。しかし風車を傾けて運転するのは元々は想定外なので構成機器に無理がかかる。ハイウインド・スコットランド(6千キロワット×5基、スパー型)やキンカーディン―2(9500キロワット×5基、セミサブ式)では、数年で風車が故障して、浮体ごと港まで回航して修理を行っている。

 ◇軽量化と風向追従

 浮体式洋上風力発電の信頼性と経済性を飛躍的に向上させるには、揺れに強い浮体式専用の風車が求められる(かつての台風対策と同様)。このニーズに中国の風車メーカーが挑戦している。

 まず2枚翼と増速機発電機一体化(SCD=Super Compact Dive)の新技術で風車を軽量化した(新エネルギー・産業技術総合開発機構=NEDO=の北九州の3千キロワット)。さらに2024年7月に広東州に設置されるNezzy2では、各8300キロワットで互いに逆回転するツインローターを、Y字型タワーの左右にダウンウィンド式で固定して1つの浮体に搭載し、1点係留で浮体全体で風向追従する。非常に野心的でリスクも高いが、そのチャレンジ精神は大したものである。

 こうした種々の技術開発の積み重ねによって、信頼性と経済性が向上すれば、浮体式洋上風力発電が広く普及する日も遠くない。

(この項おわり)

電気新聞2024年7月8日