◆精度粗くても「注意喚起」

 週間計画と実需給間近の予備率のずれが鮮明になってきた。2024年度から需給管理などに広域予備率が全面的に活用されるようになり、6~7月に複数エリアで起きた需給逼迫の際にも、これを指標に対策が講じられた。週間断面では精度が粗くても、早めに注意を促すことで安定供給を維持する狙いがあるが、一部に混乱も生じている。一般向けには誤ったシグナルともなりかねず、改善の余地がありそうだ。

 「これが真実の数字ではない」

 経済産業省・資源エネルギー庁が19日開いた翌週分の需給概況に関する記者ブリーフィング。エネ庁幹部の発言が、最近の実態を端的に表している。

 週間計画での22、23日の広域予備率は最も厳しい東北、東京で1%台(最小予備率時)にまで低下する予想だった。ただ、エネ庁は供給力の積み増しが可能で、時間の経過とともに予備率は上向くと説明。実際、翌日計画になると数字は一気に回復し、全てのコマで8%を超えた。発言は予備率向上の“からくり”を示し、過度な懸念を打ち消す狙いがあった。

 ◇需給調整市場が

 実需給に近づくにつれ、予備率が改善する傾向がここ最近顕著になっている。理由は複数考えられるが、一つは需給調整市場の週間商品が大幅に未達となっており、調整力が週間計画断面には反映されないことが挙げられる。BG(バランシンググループ)が一般送配電事業者と比較して低い需要を見込んだことで、供給力が積み上がらないことも背景にあるようだ。翌日計画以降は、余力活用電源の確保分が乗ってくることもある。

 太陽光発電の予想からのぶれも、需給に与える影響が依然として大きい。東京エリアでは22、23日、最大需要時に太陽光が1千万キロワットを超え、需給の緩和に貢献。両日とも発動指令電源の発動を回避できた。エリアによって事情は異なるが、太陽光が日中の供給力を下支えすることで揚水を温存でき、点灯帯に発電をずらせる利点もある。

 広域予備率は需給逼迫時に追加の供給力対策を打つ際の目安になる。8%、5%、3%と悪化すれば、リスクを受け入れつつ、逆に対策の強度を増していく。BGから一般送配電事業者への揚水発電の運用切り替えなどはポンプアップの量にも影響することから、時間的な余裕を持って指示を出すことが欠かせない。

 電力広域的運営推進機関(広域機関)は、「対策の中には、効果が表れるまでのリードタイムが長いものもある。的確に判断し、対策が間に合わない事態は避けなければならない」(松本理・運用部担当部長)と話す。

 ◇手計算の負担が

 需給運用における昨年度までとの相違が4月から本格的に稼働した容量市場だ。容量確保契約を締結した発電事業者らに電源の起動準備など自発的な行動を促すため、広域機関は週間・翌々日計画で広域予備率が8%を下回った時は「供給力提供準備通知」、翌日に8%を切ることが見込まれる場合には「供給力提供通知」を出す。

 通知は起動準備だけでなく、市場供出も求めている。だが、提供通知は実需給当日の深夜や早朝に出されることもあり、ここからだとスポット市場や需給調整市場への応札は間に合わない。「現実的には時間前市場しか選択肢がない」(電力関係者)のが実情だ。

 エネ庁と広域機関は6月末以降、高需要期に毎週公表している供給力(キロワット)モニタリングの公表方法を一部変更。通常の広域予備率に加え、バランス停止機の稼働を織り込んだ数字を合わせて示すようにした。より実態に近づけるのが目的だが、発電事業者から提供を受けたデータを基に手作業で計算せざるを得ず、負担は増している。

 広域予備率の「見せ方」にはなお課題も残る。週間計画時点の極端に低い数字は、事業者にとっては参考になっても、一般向けには誤った印象を与える恐れがある。各所で精度向上を求める声が上がっている。

電気新聞2024年7月26日