◆「継続」に傾く世論/国会で改正案議論
台湾の第三原子力発電所1号機(PWR、95万1000キロワット)が27日に運転終了を迎える。民進党政権は運転許可期間40年の延長を認めないことで段階的に原子力発電の削減を図ってきた。同ユニットが退役すれば、残る稼働中原子力は来年5月に運転許可期間を満了する同2号機(同)のみとなる。蔡英文前総統からのエネルギー転換(脱原子力)政策は大詰めを迎えるが、少数与党の立法院(国会に相当)ではそれに抵抗する動きが顕在化している。
◇事実上の「黙殺」
蔡前総統が就任した2016年に台湾の稼働中原子力は3サイト6基あったが、「25年非核家園(原子力のないふるさと)」を掲げ順次廃止し、現在は第三原子力の2基のみ。建設最終盤で凍結された第四原子力発電所(ABWR、135万キロワット×2基)は事業免許が失効状態だ。
対岸政策などが評価され頼清徳総統の下で連続3期目に入った民進党政権だが、脱原子力政策は有権者から評価されているとはいえない。たびたび起こった供給力不足に伴う全土規模の停電や、大気汚染への不満、エネルギーコスト負担上昇などが背景にある。18年の全有権者投票に従い電気事業法に定めた「25年脱原子力」条項を削除するも、事実上民意を黙殺して同政策を継続した経緯もある。
さらに先端半導体の製造プロセス進化や、データセンター拡大に伴う電力需要の増加が世界的なトピックとなる中、世論は原子力利用継続へ傾く。民進党寄りメディアである「美麗島電子報」の6月世論調査では全体の64.1%が原子力利用継続へ核子反応器設施管制法(日本の原子炉等規制法に相当)改正が必要と回答。脱原子力政策を継続する頼総統の支持層に限っても49.4%が必要とした。
◇運転期間「60年」
そうした声を受けて野党・国民党は、立法院に改正案を提出。7月に審議が始まった。同法案では最長40年とした運転許可期間を60年に延ばし、「運転延長申請は運転許可期間満了の5~15年前にする必要がある」とした条文を削除。これにより第三原子力の運転延長に加え、20年に運転終了した第二原子力発電所(BWR、98万5千キロワット×2基)の復活も視野に入る。
立法院は国民党が最大勢力だが、過半数に達していない。キャスチングボートを握る第3勢力の民衆党の柯文哲主席は、先の総統選で「第三原子力は稼働延長、第二原子力は復活」を訴えており、賛成する可能性が高い。頼総統はたびたび使用済み核燃料の課題解決を前提に利用を排除しないと発言をしている。与党側も地域の成長エンジンである半導体産業の維持も踏まえ、強く反対するメリットが薄い。
法改正が通ったとしても稼働延長には使用済み燃料プールの容量不足など解決すべき課題は残っており、第三原子力の運転はいったん止まる公算。だが全有権者投票で否定されても突き進んだ台湾の脱原子力が、残すところ1年を切った土壇場で覆る可能性が高まってきた。
電気新聞2024年7月11日
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