◇準商用段階、世界23万キロワット超に/ウクライナ危機で開発加速
世界初の実用規模での浮体式洋上風力発電は2009年にエクイノール社(当時はスタトイル・ハイドロ社)がノルウェーで円柱状のスパー型浮体に2300キロワット風車を載せて浮かべたのが世界初である=写真。この風車は15年後の現在も運転を続けている。続いて11年にポルトガルにセミサブ型のウインド・フロート2000キロワット浮体式風車が建設された。今ではスパー型とセミサブ型の浮体式洋上風力発電は信頼性が確立され、認証機関と銀行団から融資適格(bankable)と認識されている(浮体式洋上風力発電の色々な形式は次回記事で解説する)。
浮体式洋上風力発電は2023年末時点で、累計で世界7カ国の13サイトで23万4750キロワット・34基が運転中、さらに数件が建設中である。夢物語のように見えた浮体式洋上風力発電も、世界では既に実証段階(Verification Stage)を終えて、現在は準商用段階(Pre―commercial Stage=8千~1万キロワット級×3~11基から成る複数案件が運転中。表参照)にあり、各国(ノルウェー、英国、フランス、スペイン、アメリカ、韓国ほか)は数十ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)規模の壮大な導入目標を掲げて、既にギガワット規模(1件当たり数千億円相当)の入札が始まっている。

洋上計画を上積み
欧州の北部沿岸部は偏西風帯にあるので風況が良く、オイルショック(1973~1983年)後に陸上風力発電が大量に導入された。陸上に加え1991年から海の上に風車を建てる洋上風力開発(海底まで基礎が届く着床式)が始まり、2023年末には合計3400万キロワット・6340基の洋上風車が海の上で発電している。
北海とバルト海は海水面が低かった氷河時代には陸上だったので、沖合でも水深が100メートルより浅く、この中の50メートルより浅い海域に着床式の洋上風車が建設されてきた。今では風力発電は欧州の年間電力供給の20%(洋上風力発電はその中の約2%)を担っている。
この傾向に拍車をかけたのが、2022年2月のウクライナ危機である。石油や天然ガスを海外輸入に頼ることの危険性が顕在化した。危機感を感じた欧州各国は洋上風力計画を上積みして、50年に5億キロワットの壮大な目標を掲げている。この5億キロワットという数字は、日本の電力会社や大企業が持つ大型発電設備容量(合計約3億キロワット)の約1.7倍相当の規模となる。
仏など挽回へ好機
こうなると50メートル以浅の海域だけではスペースが足りなくなるため、より深い海域に設置できる浮体式洋上風力発電への期待が急速に高まってきた。特に北海・バルト海に面しておらず、これまでの洋上風力開発で出遅れたノルウェー、フランス、スペインは、挽回のチャンス到来であり、熱心に浮体式洋上風力開発を進めている。
電気新聞2024年6月10日