着工式典でくわ入れを行うゲイツ氏(中央)ら関係者

 米テラパワーは現地時間10日、米国西部内陸・ワイオミング州で小型モジュール炉(SMR)実証炉の着工式を開いた。炉型はGE日立ニュークリアエナジーと共同開発するナトリウム冷却高速炉「ナトリウム」(電気出力34万5千キロワット)で、第4世代炉型のSMR着工は米国初。式典には米マイクロソフト創業者でテラパワーの会長を務めるビル・ゲイツ氏や同州のマーク・ゴードン知事らが出席した。2030年までの完成を目指す。

 同プロジェクトでは電力大手・パシフィコープの石炭火力発電所敷地で「ナトリウム」を開発する。併せて溶融塩ベースのエネルギー貯蔵システムを構築し、最大で5時間、計50万キロワットの出力を確保する。実証後、商業運転を行うことを目標とする。米国エネルギー省(DOE)の次世代原子炉実証プログラム(ARDP)の一環として約20億ドル(約3100億円)の補助金を受ける。

 「ナトリウム」は沸点が880度と高いナトリウムを冷却材に用いる高速炉。電気出力が高く、廃棄物が少なく、安定性に優れることを特徴としている。GE日立が開発するナトリウム冷却高速炉「PRISM」の炉心を採用する。

 式典でゲイツ氏は「世界最先端の原子力プロジェクトに協力してくれた全てのパートナーを誇りに思う。テラパワーの次世代原子力エネルギーは、米国、世界の未来を動かすと信じている」とコメント。パシフィコープのシンディ・クレインCEOは、地域にディスパッチャブル(人為的な出力の増減制御が可能)な電源が増強される意義を強調した。

 テラパワーはゲイツ氏が出資し06年に設立。GE日立のほか、日本原子力研究開発機構と三菱重工業とも協力関係を結ぶ。欧州鉄鋼大手のアルセロール・ミタルや韓国のHD現代、SKグループなどが出資する。このうちSKは着工を受け「AI産業の急激な成長とともに世界で電力需要が爆発的に増加する中、SMRは解決する有力な方案」とした。

 パシフィコープはオレゴン、ユタ、ワイオミングなど米国内6州に供給する電力会社。親会社は著名投資家のウォーレン・バフェット氏が経営する投資会社、バークシャー・ハサウェイ。

電気新聞2024年6月12日