◇地質構造の解析を高精度化/観測データ複層化で実現
我が国は地熱資源に恵まれ、世界で第3位の資源量を有していると言われているものの、これまでのところ十分な活用がなされていない。地熱資源開発の不確実性低減に向けては、地下の地熱資源が眠る地熱貯留層を的確かつ高精度に評価するための技術開発が望まれている。これまで地下に振動・電気・磁気等を与えて得られた物理探査結果データは、人間の目や手を使って処理・解釈されてきた。近年では、ここにAI(人工知能)技術を導入し、膨大なデータの分析・解析に利用する動きが見られるようになってきた。
今回から全3回にわたり、地熱資源の活用に向けて期待される技術や電力中央研究所の取り組みなどを紹介する。第1回は、デジタル技術を用いた高精度地下可視化の現状について触れる。
今後の地熱資源開発に欠かせない技術の一つとして、地熱貯留層の評価が挙げられ、技術の高度化が望まれている。地熱貯留層とは、地熱発電の源となる高温の熱水を地下に蓄えた地質構造のことであり、地熱貯留層の深度や規模を物理探査等により適切に評価するための技術は、地熱発電所の場所を事前に選定することや、発電事業の経済性を検討する上で、重要なものである。ここでは、最近のデジタル技術等を用いた地熱貯留層評価技術について見てみよう。
◇物理探査で可視化
地熱貯留層は地表から直接見ることができないことから、地下を間接的に可視化する必要がある。このために実施されるものが物理探査と呼ばれる手法であり、地下に地震波を人工的に与え、地層境界等で反射してくる波を観測する反射法地震探査と呼ばれるものや、地表から地下に向かって電気を流し、地下における電気の通りにくさである比抵抗を求める電気探査と呼ばれるもの、地下の密度に起因して変化する地球からの引力(重力)を地表で測定する重力探査と呼ばれる手法、自然に発生した、または人工的に発生させた電磁場を測定し、地下の比抵抗を求める電磁探査と呼ばれる手法など、様々な手法が存在する。
最近では、これら物理探査手法により取得された観測データを解析する際に、取り扱い易い形に変換する前処理や、解析結果の解釈を行う際にAI(Artificial Intelligence=人工知能)技術を適用する事例が増えている。AIの技術は、人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術と言われており、これまでに物理探査手法により取得された地熱貯留層に関する大量のデータを将来にわたって有効に活用していくことを可能とする技術と考えられる。
◇CNN手法を活用
AI技術には様々な手法があり、物理探査分野で多く用いられる機械学習アルゴリズムの一つにCNN(Convolutional Neural Network)がある。CNNは多くの場合、畳み込み層とプーリング層を交互に重ね合わせた後、全結合層を何層か重ねた構造となっている=図。畳み込み層では、入力するデータとは別に特定の形状に反応するフィルターを用意し、入力画像に対してフィルターをスライドさせながら畳み込み処理を行うことで、画像から特徴を抽出する。この時、入力画像とフィルターがよく一致していればその部分は値が大きくなり強調される。
またプーリング層では、直前の畳み込み層の出力に対し、特定の領域から一つだけ数値を取り出し、画像データを圧縮する。畳み込み層とプーリング層を何層にも重ね合わせると、特徴を抽出した画像に対し同じプロセスを経由することとなり、より複雑な特徴を抽出することができる。全結合層では、特徴が抽出された画像データに対し特徴量に基づいた分類を行う。
CNNは、画像認識に長けている特徴から、物理探査分野では反射法地震探査で得られたデータから断層を抽出する目的や、地震波データのノイズ除去の目的で使用されている事例が多い。また地震波データと検層データを統合しCNNを用いることで、密度や孔隙率(物質の全体積に占める空間の割合)などの岩石特性の3次元分布を推定する試みも行われている。
ここでは、最新のAI技術を用いた物理探査データの処理能力向上について概観した。地下の情報は不確実性に満ちており、今後もAI技術等を用いた貯留層評価の高度化に向けた研究開発に当所は取り組んでいく。
電気新聞2024年5月20日